行動療法の効果を比較した、イギリスの研究

2009年11月24日(火曜日)

このブログでは、ときどき場面緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回の論文はこれです。

Sluckin, A., Foreman, N., and Herbert, M. (1991). Behavioural treatment programs and selectivity of speaking at follow-up in a sample of 25 selective mutes. Australian Psychologist, 26(2), 132-137.

■ 概要

イギリスの研究です。過去に、場面緘黙症児に行動療法を施した例(11例)と、標準的な治療プログラムを施した例(14例)の予後調査を行っています。調査の結果、行動療法が標準的治療プログラムよりも治療効果が高い等、様々なことが分かっています。

■ 所感・所見

◇ 著者の一人は、あのアリス・スルーキン氏

この研究は、『場面緘黙へのアプローチ』の本に何度も登場します(46ページなど)。また、この研究の著者の一人は、イギリスの緘黙支援団体 SMIRA の代表・Alice Sluckin (アリス・スルーキン)氏で、この方も『アプローチ』の本やDVDに出てきます。

◇ 行動療法を他の治療法と比較

今回の研究の注目すべき点は、単に行動療法を行っただけでなく、行動療法を施した多数の症例を集め、それを他の治療法と比較した点ではないかと思います。もちろんこの比較については、統計学的な処理が行われ、厳密に検討されています。

場面緘黙症の子に何らかの治療法(例えば○×療法としましょう)を試みたところ、治った!という報告はよく見ます。しかし、少し厳密なことを言うと、それだけで、○×療法が場面緘黙症の治療に効果があったと考えるのは、早計です。もしかしたらその子が声が出るようになったのは、○×療法とは別の原因があったのかもしれません。例えば、実はその子は自然に治っただけで、○×療法は全く効果がなかった、という可能性だって考えられます。また、○×療法とは別の治療法を行えば、もしかしたらもっと治療効果が高かった、ということだってあり得ます。

そうした意味で、多数の症例を集めて治療法を比較した今回の研究には、意義が大きいだろうと思います。ただ、今回の研究では行動療法の方が効果が高いという結果が出ましたが、方法にいくつか問題がありますし、一般に場面緘黙症に行動療法が効果的かどうかは、他の文献ともあわせて検討しなければならないのではないかと思います。

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◇ 『場面緘黙児への支援』の著者らによる治療法を用いた

今回の研究で11人の場面緘黙症児に施された行動療法の具体的な技法は、もとは、次の文献で記述されたものだそうです。

Cunningham, C.E., Cataldo, M.F., Mallion, C., and Keyes, J.B. (1983). A review and controlled single case evaluation of behavioral approaches to the management of elective mutism. Child & Family Behavior Therapy, 5(4),25-49.

著者のお一人、Cunningham, C.E, 氏は、あの『場面緘黙児への支援』の著者のお一人です。『支援』は、行動療法により場面緘黙症を克服するための具体的な方法がまとめられた本です。ただし、『支援』の原著が出たのは2005年、この Cunningham 氏らによる論文が発表されたのは1983年です。

◇ 具体的な治療法の中身について

この研究で行われた行動療法は、書かれてある方法を見る限りはシンプルですが、話せる場面から少しずつ話せない場面に移すというその原理は、『支援』で示されている方法と変わりません。ただし、細かな違いはあります。少し挙げるとすれば、第一に、『支援』では保護者が大きな役割を果たすのに対して、今回の研究では保護者の性格、意思等により、保護者が参加しない場合もあったこと。第二に、『支援』では、症児が話せない「場所」「人」「活動」の3つの要素に注目しているのに対して、今回の研究は「活動」の視点がないこと、等です。

1人の症児には、話しかけると虫が出てくるりんごの形をしたおもちゃを用いた行動療法を行っていますが、これは『アプローチ』に出てくる、トーキング・レイ(オウムのおもちゃ)で発話を促す方法と似ています。

ところで、このように、話しかけると何らかの反応を起こすおもちゃは日本にもあります。

Google 検索「"話しかけると" おもちゃ」(新しいウィンドウで開く

このおもちゃを使った方法、日本でも緘黙の子に使えそうにも思えるのですが、学校におもちゃを持ち込んだら校則違反になりやしないかと心配です。

◇ 日本の文献を引用している

この研究は、日本の緘黙論文を1件引用しています。英語圏の緘黙研究が日本の論文を引用するのは非常に珍しいです。引用されたのは以下の文献です。

橘玲子,中村協子,七里佳代,薄田祥子 (1982). 一卵性双生児にみられた場面緘黙. 児童青年精神医学とその近接領域, 23(5), 277-286.

この橘氏らの論文は、『アプローチ』でも引用されています。どうしてこの論文だけ引用されるのか、私には不思議です。