[緘黙] 初の高校受験 [ストーリー]

2009年12月01日(火曜日)

このブログでは、私が緘黙だった頃のことを連載形式で書き続けています。今回は中学生編の第26回です。通算第53話をお届けします。

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冬休みが明け、ついに3学期に入りました。中学校最後の学期です。高校受験、そして卒業が、すぐそこまで迫っていました。

冬休み明けには、例によって実力テストがありました。テストの結果は相変わらずで、私の学年順位は過去最低をまたしても更新してしまいました。

■ 初の高校受験

2月の初旬には、私立高校(私の地域では滑り止め)の一般入試がありました。私を含む多くの生徒にとって、初めての高校入試です。私も2学期に行われた3者面談により、私立η高校を受けることを既に決めていました。

受験日前日、いよいよ受験票が担任の先生から生徒に配られました。生徒の中には、「受験番号の末尾が4だと落ちる」などと根拠不明なことを言って騒いでいる者もいましたが、先生は「そんなの関係ない」とたしなめていました。ちなみに、私の受験番号の末尾は、見事に4でした。

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■ 受験会場の下見で、迷子に!

受験前日は、学校の授業は早めに終わりました。受験会場の下見の時間をとるためです。

私も下見のため受験会場に向かったつもりでしたが、こともあろうに迷子になってしまいました。

困った私でしたが、近くに交番を見つけました。「そうだ!おまわりさんに聞けば、道を教えてもらえるかもしれない」そう思った私ですが、なにしろ場面緘黙症(自己診断)です。(1)交番に入って、(2)警察の人に道を聞くなど、とてもできそうに思えませんでした。

ですが、この頃の私の緘黙症状は軽くなっていたことと、無口な自分を変えたいという強い思いもあり、なんとか道を聞くことに成功しました。しかし、私に道を聞かれたおまわりさんは、「あんた、ここに何年住んでるの!?」とものすごい不快そうな顔をしていました。しかも、おまわりさんの説明は、私にはよく分からず、結局家に戻って地図を確認して、受験会場に向かったのでした。

受験会場に着いた頃には、他の受験生はもう下見を終えていて、誰もいませんでした。

■ 受験当日

下見の翌日、いよいよ受験当日がやってきました。

この当日の様子は、なぜかほとんど何も覚えていません。ですが、試験に遅刻したとか、当日体調を崩したとか、緊張のあまり実力を発揮できなかったとか、そうしたトラブルに見舞われることはありませんでした。

試験は全て記述式で、面接はありませんでした。この高校は前年までは面接を課していたのですが、助かりました。緘黙の私が、面接をうまくこなせるはずがないだろうと思われたからです。

■ 不安

受験後、私は、「下見の時間に遅刻したことがマイナスに評価されて、受験に落ちるのではないか」とか、「自分のような者が、果たして受験に合格できるのだろうか」などと、親の前で不安を口にしました。

それがどういうわけか、先生の耳にまで入ってしまいました。

「富条。下見の時間に遅刻しても、合否には関係ないよ」

「お前の学力なら、よほどのことがない限り、η高校に落ちることはないよ。滑り止めだし、確実に受かるところにしたんだから」

先生はやさしく言葉をかけてくださいました。私はもともと心配性なうえ、幼少期から何かと失敗が絶えませんでした。さらに、今回の高校受験は、私にとって生涯初の入試です。不安で仕方がなかったのでしょう(それにしても、ちょっと情けないような……)。

■ 合格発表

その何日か後、いよいよ合格発表がありました。合格発表日は、どの高校も同じでした。

合格発表は、高校に直接見に行かなくても、先生から生徒全員に直接伝える、とのことでした。放課後、先生お一人が教室に残って、私たち生徒は全員廊下に出席番号順に並ばされました。出席順に一人ずつ教室に入って、先生から結果を聞くという、そういう段取りでした。

私も廊下で緊張しながら待っていました。しばらくして、私の前の人が教室から出てきたので、次いで私が教室に入りました。ますます緊張は高まりました。

教室では、先生がお一人、教卓の椅子に座って、笑顔で私を迎えてくださいました。

合格か?不合格か?







「富条、おめでとう。お前は合格だよ」







先生の口から出た言葉は、「合格」でした。

ところが次の瞬間、先生は怪訝な顔をされました。

「富条。どうしたの?あまり嬉しそうな顔じゃないね」

合格の知らせを聞いても私の表情が変わらなかったので、先生は妙に思われたようです。しかし、緘黙の私がそう簡単に表情を変えるはずがありません。

「富条、お前、受かるかどうか不安だったんでしょ?」

私は首を縦に振ったところ、

「そうか、そうか。受かってよかったね。おめでとう」

と先生は私の手を握って、合格を祝ってくださいました。

ともかく、これで高校浪人は避けられそうでした。来月に待っている、本命のε高校(公立)の入試に安心して望むことができる、そういう心境でした。

[続きの話]

◇ [緘黙] 本命校を受験する [ストーリー]