場面緘黙症とシグナリング理論

2009年12月29日(火曜日)

前回の記事「場面緘黙症と人的資本論」の補足記事です。今回も経済学に関するマニアックな内容です。それゆえ、年末のあまり人が見ていないこの時期に、ひっそりと公開することにします。

人的資本論について触れるなら、シグナリング理論についても触れておくべきと思ったので、そうすることにします。

私の大学時代の専攻は経済学ですが、経済学の理解ではさんざん苦しい思いをしてきました。こういう次第なので、私の説明には少し危なっかしいところもあるかもしれませんが、ご注意ください。

■ 人的資本論VSシグナリング理論

例えば、大卒者は、一般に高卒者に比べて所得が高いことが知られています。しかし、なぜなのでしょうか。経済学者の説明は、主に次の二つに分かれます。

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◇ 大学教育で知識や技能が蓄積される(人的資本論)

一つの説明は、大学教育を受けることにより、その人に人的資本、つまり知識や技能が蓄積されるからというものです。この結果、大学教育を受けた者は生産性が高くなるとともに、賃金が高い仕事に就くことができ、所得も高くなるというものです。

※ 前回お話したように、労働者の生産性は、その労働者の賃金と大きく関係しています。生産性の高い労働者は、賃金も高いです。

◇ 「大卒」は、有能であることの証明(シグナリング理論)

もう一つの説明は、大学教育を受けても仕事に役立つ知識や技能はほとんど身につかないけれども、大学を出たという事実は、その人が生産性が高いことの証明になり、そのため大卒者は賃金の高い仕事に就きやすくなるからというものです。

企業は人を雇う際に面接等様々なことを行ってその人のことを知ろうと試みますが、それでもその人のことは十分には分からないため(情報の非対称性)、学歴を一つの手がかりにその人が生産性が高いかどうかを判断すると、このシグナリング理論では考えます。言ってみれば、学歴が、その人が有能かどうかのシグナルになるということです。もちろん、大学を出た人が有能というのは、あくまで一般的な傾向です。

■ 子どものメンタルヘルスとシグナリング理論

シグナリング理論に思いをいたすと、前回の ADHD や場面緘黙症の話は、違った見方ができます。

子どもがこうしたメンタルヘルスの問題を抱えているために学業に支障がもし出たら、学歴にも何らかの影響があるかもしれません。もし学歴にまで影響が及ぶと、学歴が就職活動の際に企業へのシグナルになるという立場に立てば、その分就職で不利になります。

もっとも、本当に子どものメンタルヘルスが学歴に影響を及ぼすかどうか、学歴が企業へのシグナルになっているかどうか、子どもの頃にメンタルヘルスの問題を経験した者は所得が低いかどうか等々は、私には分かりません。これは計量経済学等の分野について非常に高度なトレーニングを受けた専門家でなければおそらく明らかにできないことで、私に明らかにしろと言われても無理です。あしからず。

人的資本論、シグナリング理論、どちらをとるにしても、場面緘黙症の研究に経済学は何らかの貢献ができるかもしれないと思います。