そもそも「緘黙症」って何ぞや(改訂版)
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今回お送りする記事は、「そもそも『緘黙症』って何ぞや」の改訂版です。緘黙症、特に場面緘黙症について、全般的に説明しています。なお、2006年12月2日に、第3版を公開しました。
[目次]
■ 緘黙症って何ぞや
■ 緘黙症の分類
■ 場面緘黙症の診断基準
■ 合併する精神障害
■ 場面緘黙症になる原因
■ 場面緘黙症の発症率
■ 場面緘黙症の発症時期、継続期間
■ よくある誤解
■ Q&A
* * * * * * * * * *
■ 緘黙症って何ぞや
緘黙症(mutism)とは、言語や知能等に障害(障碍)がないにも関わらず、話をすることができないという情緒障害です。話すことができないだけでなく、思うように動くことができない「緘動」の症状がある子供もいます。
緘黙症は、主に幼稚園児や小学校低学年の児童が発症します。読み方は「かんもくしょう」です。自閉症やアスペルガーとは違います。
まだまだ研究が進んでおらず、分からないことが多い情緒障害です。
■ 緘黙症の分類
☆ 場面緘黙症(selective mutism)
学校など、特定の場面で話すことができません。緘黙症の多くが、この症状だと言われています。このブログでは、この場面緘黙症をメインに扱います。最近、日本の学界では「選択性緘黙症」と呼ぶようになってきたようですが、私は気に入りません。
☆ 全緘黙症(total mutism)
重度の緘黙症で、あらゆる場面で話すことができません。非常に稀なケースです。
■ 場面緘黙症の診断基準
アメリカの精神医学会が、『精神障害の診断と統計の手引き』(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)というのを出していまして、これがけっこう権威があります。同書が示す場面緘黙症の診断基準は、しばしば引き合いに出されますので、ご紹介します。
A 他の状況では話すことができるにもかかわらず、特定の社会的状況(例えば学校など、話すことが期待されている状況)において、一貫して話すことができない。■ 合併する精神障害
B この障害は、学業成績や職業上の成功、社会的な意思疎通を妨害している。
C この障害の継続期間は、少なくとも1ヶ月(学校の最初の1ヶ月にとどまらない)。
D 社会的状況において必要とされる話し言葉の知識や心地よさの不足によるものではない。
E この障害は、コミュニケーション障害(例えば吃音など)では、よりよく説明することができない。また、広汎性発達障害や統合失調症、他の精神障害の経過中のみには発生しない。[注]
場面緘黙症は、単に話すことができないというにとどまりません。他の精神障害を合併していることも多いです。
代表的なのは、社会不安障害(社会恐怖、対人恐怖)、分離不安障害などです。特に、社会不安障害との合併は多く、ほとんどの緘黙児は合併しているとされます。あと、精神障害とは少し違うのですが、完ぺき主義や強迫観念の傾向が強いとされます。
■ 場面緘黙症になる原因
数々の原因が指摘されていますが、はっきりとは分かっていません。
ですが、しばしば挙げられるのが、本人の気質です。シャイな性格、不安を感じやすい性格が関係しているのではないかという意見が多いです。そして、誤解を恐れずに言えば、こういった気質は、多くの場合、親などから遺伝しているとも言われています。
■ 場面緘黙症の発症率
場面緘黙症の発症率については諸説が分かれていますが、多くの論者は1%未満としています。
■ 場面緘黙症の発症時期、継続期間
場面緘黙症は、保育園や幼稚園への入園、小学校への入学をきっかけに発症した…という人が多いです。しかし、実際は入園・入学の前の5歳未満の頃に発症していたというケースが多いそうです。入園や入学を経験しないと、はっきり場面緘黙だと分からないということでしょうか。なお、稀ですが高校入学で緘黙になったという人もいるそうです。
場面緘黙症は、多くの場合、せいぜい小学校までか、遅くても高校に入る頃には治っているとも言われています。しかし、中には成人後まで持ち越したと見られる例もあります。場面緘黙症は治っても、後遺症のようなものに悩んでいらっしゃる方も少なくありません。
■ よくある誤解
☆ 場面緘黙児は、自らの意思で話さないのではありません。話さないのではなく、話せないのです。
☆ 場面緘黙症は、心的外傷(トラウマ)が原因で話せなくなるのではありません。また、家庭環境に問題があるために発症するというのも誤解です。
☆ 場面緘黙症は、放っておけば治るというものではありません。むしろ、放置すると悪化するという説まであります。実際、成人後も緘黙症を持ち越したと見られる方もいらっしゃいます。早めの治療が肝心です。
■ Q&A
Q1 場面緘黙症なんて病気、本当にあるんですか?私は聞いたことありませんよ。
A1 場面緘黙症は認知度が非常に低く、本来なら適切な治療に当たるべきはずのセラピストや、学校の教師すら知らないことがあるそうです。当事者が適切な対処を受けるためにも、認知度の向上が望まれます。
Q2 私は恋多き乙女です。この前、富氏さんとお会いしたら、あまりにハンサムだったもので、緊張して声を出すことができませんでした。私も緘黙症になったのでしょうか。
A2 DSMの診断基準にある通り少なくとも1ヶ月症状が続かなければ、緘黙症とみなされません。あなたの場合は一時的なもののようなので、緘黙症とは違うと思います。
Q3 話せない緘黙児は、どうやってコミュニケーションをとっているのですか?
A3 よくあるのが、首の動作で意思を表すというものです。首を立てに振ったり(Yes)、横に振ったり(No)します。しかし、これでは十分なコミュニケーションがとれません。コミュニケーションは、緘黙児の悩みです。
A4 学校でコミュニケーションがうまくとれないなんて、大変ですね。辛さのあまり不登校になることはありませんか?
Q4 緘黙児は不登校はしないというのが定説です。なぜならば、緘黙児は目立つことをするのが嫌いだからとされます。しかし、不登校になった緘黙児の事例は実際に報告されています。
Q5 なぜ富氏さんは、緘黙の研究をするのに英語圏の文献ばかり見ているのですか?
A5 残念ながら、日本語圏では場面緘黙症の情報が極めて少ないからです。
少々長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。ついでに、人気blogランキングにクリックしてくだされば、励みになります。
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[注]
American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. (4th ed., text rev.). Washington, DC: American Psychiatric Association. 2000. 翻訳は私がしましたが、訳の品質は保証しません。なお、原文は以下の通りです。
A. Consistent failure to speak in specific social situations (in which there is an expectation for speaking, e.g., at school) despite speaking in other situations.[その他、参考にしたもの]
B. The disturbance interferes with educational or occupational achievement or with social communication.
C. The duration of the disturbance is at least 1 month (not limited to the first month of school).
D. The failure to speak is not due to a lack of knowledge of, or comfort with, the spoken language required in the social situation.
E. The disturbance is not better accounted for by a Communication Disorder (e.g., Stuttering) and does not occur exclusively during the course of a Pervasive Development Disorder, Schizophrenia, or other Psychotic Disorder.
☆ Angela E. Charles E. Melanie K. Helping Your Child with Selective Mutism: Practical Steps to Overcome a Fear of Speaking. Oakland: New Harbinger Publications. 2005.
☆ Selective mutism, http://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Selective_mutism&oldid=47951582 (last visited April 12, 2006).
☆ その他、今までこのブログで書いてきた記事
- [2006/04/12 13:32]
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コメント
こんばんは
一つ気になったのが、場面緘黙になる原因という項目です。
いまだに緘黙になる原因がはっきりとはしていないのですね。
親の気質が遺伝して緘黙になるということもあるようですが、僕の場合もそれに当てはまるかもしれません。
父親や母親を見ていても、世間での人付き合いがヘタなほうです。
それと、家族トラウマが原因で緘黙になるということも多くの誤解だということですが、これは海外でそう言われているのですか?
僕の場合、家族病理が原因で緘黙を引き起こしているという部分もあるのです。
幼いころから父親から虐待的なことをされて育ちました。
それが唯一の緘黙になった原因だとは思いませんが、ひとつの原因に家族間伝達が根にあると思うのです。
緘黙になる原因も、人それぞれだということでしょうかね。
確かに普通に愛情のある家庭に育った人でも緘黙児だったということもあれば、愛情のあまりない家庭で育った人が緘黙児だったということもあります。
本や他のサイトでも、家族に原因があると書かれていますが、それも誤解だということでしょうか?
僕の場合は、家族にも原因があるように思うのです。
ご質問ありがとうございます。
トラウマや家族の問題が場面緘黙症の原因だとする考え方は、海外でも広まっています。しかし最近では、これは間違いだったとして、否定的な見方がなされるようになってきています。比較的最近の研究を反映したアメリカの緘黙支援団体 SMG-CAN や Selective Mutism Foundation のウェブサイトも、トラウマや家族病理が場面緘黙症を引き起こすという考え方を古い説、あるいは神話だとみなしています。
>本や他のサイトでも、家族に原因があると書かれていますが、それも誤解だということでしょうか?
私は、これは大きな誤解だと考えています。
■ トラウマ
最近の研究では、トラウマ説は否定されているといっても言い過ぎではありません。
Steinhausen, H. と Juzi, C. の1996年の研究などによると、緘黙児が幼少期にトラウマを経験したとか、ストレスの多い出来事に遭遇したということは、他の児童に比べてとりわけ多いということはないということが明らかになっています。また、Dummit, E. S. などの1997年の研究は、緘黙児にトラウマの証拠は見つからなかったとしています。
Helping Your Child with Selective Mutism という保護者向けの緘黙本は、これらの研究成果を紹介した上で次のように説明しています。
most experts in the field now discount early trauma as a primary contributing factor in the emergence of selective mutism.(32ページ)
「場面緘黙症の分野のほとんどの専門家は、現在、幼少期のトラウマを、場面緘黙症を発症させる主要な要因としては無視(「軽視」とも訳せる)している」
そして、続けて次のようにも述べています。
This is not to say, of course, that a traumatic event couldn't trigger selective mutism in some children. Certainly, there have been individual cases where children stopped talking shortly after a traumatic event. We don't deny that traumatic experiences might help explain selective mutism in a small percentage of cases. However, the evidence to date show that trauma doesn't explain why most children with selective mutism develop the condition.(32ページ)
「もちろん、これは、トラウマを残すような出来事が、いくらかの子供たちに場面緘黙症を引き起こすことができないということではない。確かに、トラウマを残すような出来事の直後に子供たちが話すのを止めたという個別の事例が、これまでにあった。我々は、トラウマを残すような出来事が場面緘黙症を説明するのに、小さなパーセンテージの事例において、役立つかもしれないということを否定するものではない。しかしながら、今までの証拠が示すところは、トラウマは、なぜほとんどの子供が場面緘黙症を発症するのかを説明はしない」
(続きます)
続きです。
場面緘黙症が機能不全家族と関係があるとした文献は、実は存在します。しかし、それは Hayden, T. L. という人が著した1980年のケース・リポートなど、古いものに多いのです。しかも、Hyadenの文献は、学術的に疑問符がつけられているようです。
最近の研究、例えば Kristensen, H., と Torgensen, S.(2001年)や、Cunningham, C. E. (2004年)、Vecchio, J. L. と Keanrney, C. A. (2005年)などの論文は、場面緘黙症と家族病理との関係を否定するものです。
聞くところによると、『場面緘黙児の心理と指導』(1994年)も、緘黙の原因に家族の問題を挙げているそうですね。しかし、この本をAmazonのカスタマーレビューで「古すぎるのでは?」と評したwaka-jkさんという方は、「緘黙の原因に親の養育態度や家族関係をあげており、緘黙の子を持つ親が間違った自責の念を持ちかねない」と指摘しています。ウェブサイトで家族に原因があると説明したものは、おそらく『場面緘黙児の〜』や、Hayden などの古い文献に依拠したものではないかと思います(特に、『場面緘黙児の〜』は日本では影響力がありそうです)。
もっとも、場面緘黙症と機能不全家族の関わりを示したケース・リポートも、実際にいくつかあることはあるそうです。
ですから、これもおそらく、家族病理が原因で場面緘黙症になるケースもないことはないのだけれども、それは稀だ、ということではないかと私は見ています。
長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
全緘黙症
娘の声を最後に聞いたのは娘が11歳の頃だった
と思います。
いろいろなサイトを見て、娘は全緘黙症ではないかと
思います。
今までに一度も治療した事はありません。
20年以上全緘黙症です。治療法を教えていただけ
ませんか?
コメントありがとうございます。
ですが、大変申し訳ないのですが、私は専門家ではなく、また、長期間続いた全緘黙症については詳しくないので、お答えするのが難しいです。
専門家の相談、診察は受けたことはおありでしょうか?もしまだなら、まずは専門家の意見を聞くことをお勧めします。
それから、声が出ないという症状には、全緘黙症のほかにも失声症や失語症というものもあると聞きます。もしご存知なければ、こちらの可能性もお考えになってはいかがでしょうか。
歩き出したA
目立ちたくないはずのうちのAさん(場面緘動です)、このごろ歩いています!一人で!周りに人がいても!
とってもゆっくりゆっくりですが。
廊下でも、教室でも、自分で動き出しました。
これは当人にとっては画期的なことではないかと思います。同時に、ものすごい努力の結果でもありましょう。周りの子は、「あれ〜・・・?」という顔ですが、幸い、見守っていこうというムードで、からかう子はいまのところなし。
気をつけたいのは、こっちが勝手に期待しすぎて、勝手にがっかりしないようにすること。停滞期が来ても焦らないようにしようと思っています。
とにかく、Aさんの表情が明るいのがうれしい。
Aさんが話すのは、まだ先の先の先ですが、「千里の道も一歩から」ですね。
富重さんにぜひ知らせたかったので、書き込みました。
かんすけさん、コメントありがとうございます。
Aさんも、ものすごい努力をされたのでしょうが、かんすけさんや学校、子どもたちの理解と支援があってのことでしょう。
>停滞期が来ても焦らないようにしようと思っています。
停滞期のことまで既に考えていらっしゃるんですね。こうした姿勢があれば、長い目で見れば必ずや改善の方向に向かうだろうと思います。
幼稚園のときから話せない・・・。
小1〜3年生まで、あんまり学校に行きませんでした。そして・・・小5年の時・・・。mちゃんが、「遊ぼ!奈央」と、話してくれました。今は、すっかり仲良くなって、良い毎日だと、思います。
「うん」「違う」など、あと、・・・休みの日、一緒に遊んだりしています。
奈央さん、はじめまして。
奈央さんは、「うん」「違う」など、少し話せるようになったんですね。仲のよいお友達ができて、よかったです。
奈央さんの緘黙が治るまでには、もしかしたら時間がかかることになるかもしれませんが、これから少しずつ良くなっていくと思いますよ。
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