フェイディング法に対人関係ゲームを加える

2010年04月27日(火曜日)

このブログでは、時々緘黙症の論文を取り上げています。私は専門家ではないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。今回は、これです。

◇ 沢宮容子, 田上不二夫 (2003). 選択性緘黙児に対する援助としてフェイディング法に対人関係ゲームを加えることの意義. カウンセリング研究 36(4), 380-388.

■ 概要

場面緘黙症の事例です。緘黙の幼稚園児A子さん(5歳)に対して「フェイディング法」と「対人関係ゲーム」を行っています。同時に、家庭、幼稚園など緘黙症児をとりまく集団に対して認知行動療法的アプローチを実施しています。これにより、症児の発話の頻度を高めることに成功しています。

■ 所感・所見

◇ 日本でもフェイディング法

今回場面緘黙症児に行われたフェイディング法は、症児が家族と話している最中に徐々に人が姿を現す fade-in と、家族が姿を消していく fade-out からなります。

このフェイディング法は、The Selective Mutism Resource Manual 等で紹介されている sliding in という技法と重なるところがあります。ですが、この論文の著者は、そうした海外の文献を参照したわけではなさそうです。著者はフェイディング法について、松村茂治氏の『教室でいかす学級臨床心理学』を2度にわたって引用しているため、松村氏の著書等を特に参考にしたのかもしれません。この松村氏の著書には、緘黙についての記述があるようですが、私は内容を直接確認していません。

※ なお、これとは別に、松村氏は、場面緘黙症の子にフェイディング法を行った事例を発表しています。詳しくは、「クラスのなかの場面緘黙」参照。

場面緘黙症児への行動療法というと英語圏の手法がよく引用されますが、日本でも緘黙への行動療法の蓄積が全くないわけではありません。

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◇ 対人関係ゲーム

対人関係ゲームは、共著者の一人である田上不二夫氏がかつて著書の中で扱ったことのある新しい行動療法の技法のひとつで、身体運動反応と楽しいという情動反応を活用しています。具体的には、「丸・三角・四角遊び」(丸・三角・四角をひもで作っておき、教諭のホイッスルに合わせて、グループ別、男女別などで各図形の場所に移動していく身体遊び)と「お店屋さんごっこ」(グループ別にお店屋さんになり、買い手、売り手の体験をする遊び。それぞれのグループごとにお店で売るものをつくっておく)を幼稚園で実施しました。これにより症児の発話量を増やすことに成功しています。

ゲームを通じて緘黙症児を支援する方法は、イギリスの本の邦訳『場面緘黙へのアプローチ』などでも紹介されています。著者がこうした海外の文献を参照した形跡は、論文を見る限りではうかがえないのですが、海外の手法と重なるところもある手法を行っていた点は興味深いです。

この対人関係ゲームのうち、丸・三角・四角遊びは発話を伴う遊びではないのですが、これにより「偶然」声が出た点に注目したいです。この遊びは不安・緊張を緩和することが狙いのようですが、それが功を奏したのでしょう。論文の著者は、声が出たのは「偶然」という表現を用いていますが、ある意味では「必然」だったのかもしれません。

◇ 緘動

論文の中では、「いわゆる"緘動"」として、「緘動」という表現が用いられています。緘動は、『場面緘黙児の心理と指導』の中で出てくる表現で、ネット上ではときどき見かけますが、こうした学術論文で見かけるのは珍しいです。緘動という用語が、こうしたところでも使われるほど広まっています。

◇ 孤立する緘黙の子

今回の論文を読んで不憫に感じたのは、A子さんです。幼稚園で話をしないことについて、担任教諭からは「わがまま」と受け取られたり、両親からは無理に話させようとされたり体罰を受けたりと、理解されず孤立しています。論文なのでこのあたりは淡々と書かれてありますが、まだ5歳の幼稚園児であるだけに、一番身近な大人たちからこのような扱いを受けるのは心が痛みます。こうした緘黙の子はA子さんに限らずたくさんいるのでしょう。

◇ そのほか

フェイディング法により緘黙症児の行動の変容を図るのみならず、家庭、幼稚園など症児をとりまく環境にも働きかけを行ったり、集団との関係作りを図る目的で対人関係ゲームをとりいれたりするなど、よく考えられています。