電話を使って、緘黙が軽快

2010年05月08日(土曜日)

緘黙を主題とした記事が、イギリスで最も発行部数の多い新聞 The Daily Telegraph などいくつかのイギリスのメディアに掲載されました(電子版で確認)。5月の4日から6日にかけてのことです。読んだ感想を書きます。

どの記事も、親が自分の子が場面緘黙症であると気づき、教師の支援により子どもが話し出したというあらすじです。ですが、たとえ同じような記事でも、複数の媒体で掲載されると緘黙の認知度向上に効果が大きいと思います。

■ テレビ番組で自分の子が場面緘黙症であると知った

この緘黙の子の親は、BBC のドキュメンタリー番組を見たことが、息子が場面緘黙症であると知るきっかけとなったのだそうです。おそらく、今年2月に放送された緘黙のドキュメンタリー番組のことでしょう(「英BBC、デイリーメール紙で緘黙が」参照)。

メディアが場面緘黙症を取り上げると、緘黙の認知度向上につながります。私などは、特に教育関係者や心理臨床の専門家の間での認知度向上ばかり考えてしまいます。ですが、このように、緘黙の子を持つけれども場面緘黙症を知らない家族がいることも忘れてはなりません(自分に言い聞かせてます)。BBCのドキュメンタリー番組が放送されなければ、おそらく親は今なお自分の子が場面緘黙症だとは気づかず、この子は学校で緘黙する日々が続いていたことでしょう。

[緘黙の認知度向上で……]

○ 家族が緘黙を知る⇒自分の家の子は緘黙だと気づき、適切な支援につながる可能性も
○ 教育関係者や専門家も緘黙を知る⇒今まで見過ごされてきた当事者への適切な支援につながる可能性も
○ 一般の人も緘黙を知るようになる⇒?
○ 当事者も自分は緘黙だと気づく⇒?

■ 電話を使った支援

興味深かったのは、教師の支援により、2ヶ月で緘黙の克服に大きな進展が見られたことです。この教師の支援の過程は次のように書かれています。なお、Lewis とは緘黙の男の子の名前です。

* * * * * * * * * *

* 以下引用 ("Boy speaks to," 2010) *

It started with Lewis emailing his teacher at her home email address, before moving onto leaving her voice mails on her mobile.

This then progressed to evening phone calls, during which he would read his book to her down the phone.

And later he became confident enough to read to her in school, initially with mum there but then without her.

最初は、Lewis が家で教師の自宅メールアドレス宛にメールを送ることからスタートした。その後、教師の携帯電話に Lewis が留守番電話を残すことに支援は移った。

その次は、夜に電話をする段階に進んだ。Lewis は夜、電話ごしに教師に本を読み聞かせた。

その後 Lewis は、教師に学校で本を読み聞かせるほどに自信がついた。最初は母親が一緒にいる場面で、その後は母親がいない場面で、本を読んだ。

* 引用終わり *

日本語訳がなってなくてすみません。イギリスらしく行動療法を思わせる介入です。まずは緘黙の子が比較的安心できる場面で発話をし、徐々に、緘黙してしまう場面でも発話を試みるわけです。

こうした原理を用いた技法は様々なのですが、今回は電話を効果的に使った点がポイントでしょう。電話を通して教師に声を聞かせる方が、直に教師がいる場面で発話するよりも易しいという判断から、おそらく最初の段階として電話を使うことから始めたのだろうと思います。このような方法は、緘黙の子が安心して話している場面に少しずつ人を近づけていく sliding in という特にイギリスでは有名?な技法とも共通するものがあります。

なお、電話を使った方法は、『場面緘黙Q&A』でも紹介されています。ここで紹介されている方法とは少し違う方法ですが、詳しく書かれてあり勉強になります。実は電話作戦は、緘黙への行動療法では、それほど珍しい方法ではありません。

Lewis 君の緘黙は、2ヶ月でかなり軽快したようです。先に引用した記述からは、比較的オーソドックスながらも確かな支援が行われていたことが窺われますし、一部の記事では、ここまでスムーズに事が運んだヒントとも思えることが最後に書かれてあるのですが、それにしても2ヶ月とは驚きを隠せません。今回の記事は、場面緘黙症を紹介した記事というよりはむしろ、緘黙の子が話せるようになった嬉しいニュースという書き方で、読後感はよいです。

[ここで話題にした記事は、以下の通りです]

◇ Boy speaks to teacher for first time after 'selective mutism' therapy. (2010, May 4). The Daily Telegraph. Retrieved from http://www.telegraph.co.uk/health/healthnews/7676909/Boy-speaks-to-teacher-for-first-time-after-selective-mutism-therapy.html
◇ Schoolboy speaks to his teacher for the first time after overcoming 'selective mutism' (2010, May 5). Retrieved from http://www.dailymail.co.uk/health/article-1272631/Lewis-Fawcett-Schoolboy-speaks-teacher-time-overcoming-selective-mutism.html
◇ Donovan, S. (2010. May 6). Lewis finds his voice at last after years of being too scared to speak. Portmoths Today. from http://www.portsmouth.co.uk/people/Lewis-finds-his-voice-at.6276835.jp
◇ Hough, A. (2010. May 5). Schoolboy, 7, talks to teacher for first time after 'selective mutism' therapy. The Daily Telegraph. Retrieved from http://www.telegraph.co.uk/health/children_shealth/7677040/Schoolboy-7-talks-to-teacher-for-first-time-after-selective-mutism-therapy.html