続・新しい緘黙の洋書

2010年06月08日(火曜日)

Helping Children With Selective Mutism and Their Parents: A Guide for School-Based Professionals新しい緘黙の洋書(中間報告)」の続編です。

以前のお話を少し繰り返しますと、今回お話しする本は、ネバダ大学ラスベガス校教授の臨床児童心理学者 Christopher Kearney 氏が著した Helping Children With Selective Mutism and Their Parents: A Guide for School-Based Professionals という本です。日本語に訳すと、『場面緘黙児とその両親への支援:学校に基礎を置いた専門家への手引き』といったところでしょうか(訳が下手で、すみません……)。

本の内容は、主に行動療法により、緘黙の子を支援する方法を具体的にまとめたものです。教師やスクールカウンセラーなど、学校関係者を対象とした本です。

■ 各章を読んだ感想

私は専門家ではなく、大したことは書けないのですが、前回お話した第2章より後の章を読んだ感想をまとめます。

○ 第3章、第4章

第3章、第4章では、ともに暴露療法(exposure)を基礎とした、緘黙の子を支援する方法が示されています。そのうち第3章では家庭を、第4章では地域や学校を舞台に、緘黙の子を段階的に発話に持っていく方法が示されています。本書の中核部分と言える章です。

第3章にある家庭訪問等の記述は、学校関係者を対象とした本だからこその内容と言えます。同じ行動療法原理で緘黙の子を示す方法を示した『場面緘黙児への支援』の場合、家庭訪問に関する記述はありません。なぜならば、保護者を対象とした本だからです。

これらの章では、リラクゼーションやソーシャルスキルトレーニングといった、類書では必ずしも触れられないこともある程度説明されており、芸が細かいです。

* * * * * * * * * *

○ 第5章

* 以下引用(8ページより)*

子どもの中には、話したがってはおらず、意図的に話すことを拒絶している子がいるかもしれません。

Some children may not be anxious to speak but deliberately refuse to speak.

* 引用終わり *

著者は、場面緘黙症児の中には、上のような子もいるとしています。そして、そうした子には随伴性マネジメント(contingency management)が役立つとして、その手法を第5章で紹介しています。これは本書の特徴の一つです。

ここは、私が最も頭を抱えたところです。以前より、緘黙の子の中には「反抗的」(oppositional)だとか「破壊的」(disruptive)だとか、あるいは「操作的」(controlling)のように見える行動を示す子もいると言われており、著者はそうした行動をとる子を念頭に置いてこの章をまとめたものと思われます。ただ、このあたりは、Viana ら(2009)が先行研究をよくまとめているのですが、様々な科学的根拠が混在しており、なかなか難しいところです。

緘黙の子の中には、本来不安が強くて話せないにもかかわらず、それが理解されず単に反抗的なだけなどと誤解される子もいます。それだけに、どうして子どもがそのような行動をとるのか、そのような行動の背景には何があるのか、そうした行動をとる子どもは本当にみな反抗的なのか、著者はもっと丁寧に説明するべきではないかと思います。さもなければ、著者の説明は誤解を与えかねません。もっとも、現在の研究状況でははっきり説明できる範囲は限られるかもしれませんが。

○ 第6章

第6章では、緘黙に加えて、何らかのコミュニケーションの問題を持った子への支援法がまとめられています。第5章といい、緘黙の子をタイプ別に分け、それぞれのタイプに最も効果的な支援法を示しており、配慮が行き届いています。

○ 第7章

第7章では、緘黙のぶり返しや、その他の問題がまとめられています。ぶり返しは意外にあまり類書では書かれていないのですが、著者は slip と relapse の二通りに分類し、比較的丁寧にまとめています。

■ 全体的な所見、所感

行動療法をベースに緘黙の子を支援する方法を示した本としては、既に『支援』や The Selective Mutism Resource Manual が出ており、そのため、今回の本は若干インパクトに欠けます。しかし、類書にはない、あるいはあまり説明されていないことも書かれてあり、読む価値があります。学校関係者を対象とした本ですが、『支援』を読んでいるような保護者にとっても参考となりそうなことが書かれてあります。平易な英文で書かれており、特に難しい内容もないので、英語さえ苦でなければ(ここが大きいのですが……)専門家でなくても読めそうです。

日本の読者にとって大きな問題は、このアメリカの本で紹介されている技法が、そのまま日本でも使えるかどうかです。これについては、残念ながら私は日本の学校についてあまり詳しくないので、よく分かりません。ただ、少なくとも、日本の読者にも参考になりそうなことは書かれてあるとは言えます。

ちょっと偉そうなことも書いてしまいましたが(本を執筆するより、それをああだこうだ言う方がずっと楽です)、一素人が読んだ感想でした。