地域障害者職業センターに来所した緘黙者

2010年06月15日(火曜日)

場面緘黙症と職業に関する情報を、ある方からいただきました。ありがたいことです。

今回は、その中でも、いくつかの研究報告で引用されていた 日本障害者雇用促進協会(1994)「“その他”の障害者の就業状況等実態調査」 を取り上げます。場面緘黙症と診断された後に地域障害者職業センターに来所した者や、同センターに来所した者のうち、担当障害者職業カウンセラーが場面緘黙症に該当すると判断した者の就業状況等が、ここに掲載されています。

これを引用したいのですが、原典が見つからなかったので、申し訳ありませんが、小畑ら(1997)や伊達木(1996)から孫引きします。

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表 地域障害者職業センターに来所した緘黙者の就業状況等

表 地域障害者職業センターに来所した緘黙者の就業状況等

資料:小畑ら(1997)や伊達木(1996)をもとに作成。
注:「雇用された割合(%)」については、1992年と93年度に障害者職業総合センターに新規に来所したクライエントのうち、翌年度以降の就業状況等の追跡時に雇用されていた者の割合を示す(在学者は除く)。また、「法的助成の必要性」については、担当障害者職業カウンセラーに対して、場面緘黙症に法的助成の必要性の有無について回答を求めたもの。

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○ 地域障害者職業センターに来所した緘黙の人がいる!

まず、地域障害者職業センターに来所した緘黙の人がいることが興味深いです。同センターの概要については、以下のリンクをご覧ください。

障害者職業センターの概要新しいウィンドウで開く
↑ 厚生労働省ホームページへのリンクです。これはPDFファイルです(135KB)。PDFを閲覧するにはAcrobat Readerが必要です。Acrobat Readerはこちら(新しいウィンドウで開く)からダウンロードできます。

上の表から窺うに、同センターは、青年期になっても緘黙を持ち越したまま労働市場に入ることになった者に対して、就労支援を行った実績が少ないながらもあるようです。小畑ら(1997)の調査報告書では、同センター新規来所者について、様々な障害の特徴と就業上の課題を把握し、職業リハビリテーションサービスのあり方や支援策等の検討が行われていますが、この中でも、緘黙の事例について具体的な言及があります(68-69ページ)。

ただ、緘黙の人は全て同センターで支援を受けられるのか、どういった緘黙の人が利用できるのか、これは私には分かりません。緘黙の人には、発達障害などほかの障害を併せ持っている人もいます。同センターで支援を受けた緘黙の人は、緘黙のみを持った人なのか、他の障害をも併せ持っていたからこそ支援を受けられた人ばかりなのか、このあたりも分かりません。

そもそもこれらの緘黙者は、どのような経緯でこのセンターを訪れたのでしょうか。ここの訪問者は、自分は「場面緘黙症」であり、地域障害者支援センターの利用対象者だとやはり自覚していたからこそ、利用したのでしょうか。どこかの機関から回されてきたのでしょうか。

あと、緘黙の人は、今でも同センターでは支援を受けることができるのか、これも私には分かりません。気になるところではあるのですが。

○ 雇用された割合42.1%

雇用された者の割合が42.1%という数字も興味深いです。緘黙が長引くと就業に影響が出ることは想像がつきますが、では緘黙経験者がどの程度の割合で就業に成功するのか、この数字はなかなか見つかりません。それだけに、貴重な数字です。

ただ、あくまでこれは地域障害者職業センターに来所した者の就業状況です。資料も1994年と15年ほど前です。センターに来所した者はもしかすると重度の緘黙者が多く、就業率は低くなると解釈すればよいのでしょうか。それとも、センターで支援を受けても、緘黙者が雇用されることは簡単ではないと解釈すればよいのでしょうか。

なお、この42.1%という数字を他の障害と比較すると、「自閉症・自閉的傾向」(30.2%)や「学習障害」(36.8%)よりは高いです。伊達木(1996)は、この雇用者比率は「軽度障害者以上の厳しさ」であるが、「中度障害者以上の厳しさ」ほどではないと位置づけています。

○ 法的助成の必要性「ある」73.7%、「ない」0.0%

場面緘黙症は、当時、障害者の雇用の促進等に関する法律等の助成対象にはなっていませんでした。そこで、担当障害者職業カウンセラーに対して、場面緘黙症に法的助成の必要性の有無について回答を求めたところ、上記表のとおり、「ある」73.7%「ない」0.0%「分からない」22.2%という結果でした。

これは、カウンセラーが同センターに来所した緘黙者と接した経験だけをもとにこのように回答したものか、そのあたりのところは分かりません。もし、緘黙者に法的助成の必要性を主張したいとき、この数字を補強材料として使うには、そのあたり留意が必要かもしれません。

現在では、場面緘黙症は発達障害者支援法の対象とされてはいます。ですが、この法律に基づいて、緘黙者はいったいどういった雇用支援を受けられるのか、特別な支援を受けられるのかどうか、今のところ私には分かりません。この法律は理念法とはよく聞くのですが、どうなのでしょうか。

○ むすび

地域障害者職業センターの実態調査から、同センターが緘黙者を支援した実績が、少なくとも90年代頃には少ないながらもあったことが分かりました(現在は分かりません)。また、緘黙者の就職困難度と法的助成の必要性について考える一つの材料を得ることができました。

ですが、そうした緘黙者に対してどういった法的支援が具体的になされているかは、今のところ私は知りません。また、ほとんどの緘黙経験者は、教育機関を出た後、同センターを利用することなく就職活動をするのでしょうが、そうした人たちについてはよく分かりません。青年期の頃には緘黙は完治し、同センターを利用する必要が全くなくなっている人も少なくないはずです。

[文献]

◇ 伊達木せい(1996). 法的助成の対象となっていない障害者に関する職業上の障害の判定について. リハビリテーション研究, (86), 33-39. http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/rehab/r086/r086_033.html

◇ 小畑宣子, 田谷勝夫, 春名由一郎, 梅永雄二, 望月葉子, 田中敦士, 松為信雄. (1997). 地域障害者職業センターの業務統計上“その他”に分類されている障害者の就業上の課題. http://www.nivr.jeed.or.jp/research/report/houkoku/houkoku21.html