[緘黙] 富条君の笑顔を見たい! [ストーリー]

2011年01月18日(火曜日)

このブログでは、私の過去を連載形式で振り返っています。今回は高校生編の第11回です。通算第69話をお届けします。

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■ 新クラスの印象

高校2年の新クラス(特別進学クラス下位)は、大人しくて真面目な人が多い印象でした。授業中、生徒は静かに教師の話を聴き、教師が板書したものをコツコツとノートにとるだけという、そうした様子でした。大人しい私にはなじみやすい雰囲気でしたが、担任のD先生には物足りなかったようです。

ただ、一部の男子生徒はギラギラした雰囲気を漂わせていて、学業成績、偏差値、難関大学への合格に強いこだわりを持っている様子をうかがわせていました。

女子にはギラギラした人は見かけなかったのですが、一部に、異性への強い関心を隠さない人が見受けられました。とある女子グループなどは、昼食中、どの男子が好みかという話をしていました。妙なことに、その中の一人は「私は富条君がいいなぁーっ!」などと元気に発言、私には丸聞こえで、食べたものがのどに詰まりそうになりました。私は一部の女子から「異性」と見られていると感じ始めていましたが、自分のような緘黙男のどこがいいのか、不思議でなりませんでした。

■ 隣の席のMさんについて

新学期が始まって1ヶ月の間は、私はMさんのお隣の席でやっていくことになりました。

Mさんと私は、小学校の頃の同級生でした。小学校当時、Mさんは私のことが好きなのではないかという噂が流れていたのですが、お互い疎遠なまま卒業し、真相も不明に終わっていました。この新クラスでも、席が隣になったとはいえ、お互い疎遠なままでした。Mさんの話し相手はもっぱら近くの席の女子生徒でしたし、私は緘黙でしたから、自らMさんに話しかけたりはしませんでした。

ただ、Mさんは面と向かっては私と話をしないのに、私のいないところでは、友達に私のことを色々と話しているような節がありました。陰口というよりは、どうも私のことを好意的に話している様子でした。オナゴのすることはよく分かりませんが、まあ言わせておけばいいと思っていました。

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■ 富条君が笑っているところを見たい!

この頃の私は緘黙が軽快していて、授業中に先生が笑い話をしたときなど、笑うことができました。ただ、声を出して大声で笑うとか、そうした笑い方はまだまだできず、声を出さずにぎこちなく小さく微笑むように笑っていました。

そんなことを続けていたところ、妙なことに気づきました。私が笑い出すと、隣の席のMさんが、急にこちらを振り向くのです。

ある時、女子同士の会話が私に漏れ聞こえてしまいました。なんでもMさんは、私の笑顔を見てみたいと思っているというのです。

なんじゃそりゃー!!

よくよく考えてみると、Mさんは小学校時代の私しか知りません。小学生の頃の私は、緘黙が重く、学校では小さく微笑むことさえもできませんでした。だから、現在緘黙が軽快し、私が笑っているところに興味を持つようになったのでしょう。

少し見方を変えると、緘黙最悪期の同級生であるMさんがお隣にいても、私は当時のように緘黙が重い状態に戻ってしまわなかったとも言えます。

それにしても、私が笑っているところにそんなに注目されると不愉快です。それに恥ずかしいです。以後、私が笑っている最中にMさんがこちらを振り向くと、私は急遽笑うのをやめてムッツリした表情をするようになりました。

■ 忘れた教科書をMさんに見せてもらわざるをえず……

私には、持ち物をやたらと忘れてくる悪癖がありました。他のクラスに忘れ物を貸してくれるような友達もおらず、忘れ物をしたときは教材のないまま授業を受けざるをえない状況でした。

教科書を忘れた場合、私は隣の席のMさんに見せてもらうことは遠慮し、一人で教科書なしで授業を受けるようにしていました。ですが、特にあの怖いD先生などは「馬鹿なことするな。隣のMに見せてもらえ」とおっしゃるので、やむをえずMさんと机をくっつけて、見せてもらわないといけない場面も多々出てきました。

ある日の授業でも私は教科書を忘れてしまい、Mさんの教科書を、またしても机を並べて見せてもらうことになってしまいました。授業が終わった直後、私は考えました。これだけ何度もMさんにお世話になっている以上、改めて何かお礼の言葉を伝えなければならないと。ですが、軽快していたとはいえ、私は場面緘黙症です(自己診断ですが)。お礼の言葉一つを伝えるのにも勇気が入りました。ですが、思い切って、言ってみました。

富条「あ、あの……」

M「?」

富条「いつも見せてもらって、悪い……」

当時の私には、これだけのことを話すのも大変なことで、やたらと緊張しました。話し声も小声で、しかもぎこちなく、自分でも情けなくなりそうでした。ですが、なんとか伝えることができました。

それに対してMさんは、笑顔で

M「ううん、別にいいよ」

と言ってくれました。そうした一言を言ってもらえると、こちらもありがたいです。私は汗をかきながらホッとして席に座りました。ただ、Mさんはこんなぎこちない私を見て、どう感じたのでしょうか。

そのMさんですが、私との会話が終わるやいなや、突然前の席の女子生徒の腕を強引に引っ張り、なにやら興奮した様子で、彼女を連れて廊下に走り去ってしまいました。一体なんなのでしょうか。

[続きの話]

◇ [緘黙] 特進クラスの授業 [ストーリー]