ひきこもりガイドラインで緘黙が言及されたのは、なぜか

2011年03月15日(火曜日)

東日本大震災、極めて深刻な被害状況に大変胸を痛めています。被災者の方のご無事を祈っています。

* * * * * * * * * *

本題です。

以前にもお話しましたが、厚生労働省の研究班がまとめた「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」が、2010年5月19日に公表されました。そして、このガイドラインでは「ひきこもりと関係の深い精神障害とその特徴」の一つに、「対人恐怖的な妄想性障害(醜形恐怖、自己臭恐怖、自己視線恐怖)や選択性緘黙など児童思春期に特有な精神障害」が挙げられていました。選択性緘黙は、場面緘黙症のことと考えて問題ありません。

ところで、どうして場面緘黙症が「ひきこもりと関係の深い精神障害」の一つとして挙げられたのでしょうか(扱いは小さいですが)。私はこれをずっと疑問に思っていたのですが、その大きな手がかりとなりそうな資料を見つけました。

■ ひきこもりガイドライン作成の基礎となった研究

実は、このひきこもりガイドラインの作成は3年計画で進められ、毎年研究報告書が発表されてきました。『思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究』といいます。その3年目の報告書が、今月厚生労働科学研究成果データベースで一般公開されました。

■ ひきこもり実態調査で、選択性緘黙が148件中1件

報告書では様々な研究成果が掲載されていますが、その中で、「思春期ひきこもりにおける精神医学的障害の実態把握に関する研究」(近藤ほか, 2010)に、緘黙についてわずかではありますが言及がありました。

それによると、全国5ヶ所の精神保健福祉センター・こころの健康センターで受け付けたひきこもりケース(初回来談時16-35歳)のうち、本人が来談した184件について精神医学的診断(DSM-IV-TRによる多軸診断)を行うなどしたところ、診断が確定した148件のうち、「選択性緘黙」の診断が1件だったというのです。

この研究結果などをもとに、ひきこもりガイドラインが作成されています。そうすると、もしかすると、実際に「選択性緘黙」の診断が下されたひきこもりケースが1件存在したことが、ガイドラインに「ひきこもりと関係の深い精神障害」として選択性緘黙が小さく取り上げられたことと深く関係しているのかもしれません。

ただ、ひきこもりでない16-35歳の人であっても、選択性緘黙と診断される人も中にはいるでしょう。ひきこもり148人中1人が緘黙というのは、多いと見てよいのかどうか私には分かりません。また、ひきこもりの人が緘黙だったからといって、それを直ちにひきこもりの原因と見てよいのだろうかと思います。このあたり、報告書を読むだけでは私には分かりません。ひきこもりガイドラインで緘黙が言及されたのには、他にも何か根拠があるのかもしれません。

[関連ページ]

◇ 「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」の公表について
新しいウィンドウで開く

↑ 厚労省ホームページへのリンクです。

[文献]

◇ 近藤直司, 清田吉和, 北端裕司, 黒田安計, 黒澤美枝, 境泉洋, 富士宮秀紫, 猪俣夏季, 宮沢久江, 宮田量治. (2010).思春期ひきこもりにおける精神医学的障害の実態把握に関する研究. In 齋藤万比古 (Eds.), 思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究 (pp. 67-86). Retrieved from http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do