米国の障害者教育法に基づく緘黙児の教育支援

2011年11月09日(水曜日)

アメリカの場面緘黙症についての情報を集めていると、ときどき IDEA とか Section 504 といった言葉にぶつかります。どうやら、アメリカの学校教育での緘黙児支援に関わる用語のようです。IDEA とか Section 504 のどちらに基づいた教育支援を受けるのがよいかとか、教育計画の作成にはどう臨めばよいかといったことが、アメリカの緘黙に関するいくつかのウェブサイトなどで解説されています。

そこで、このブログでは IDEA と Section 504 について、緘黙児支援の視点から簡単にまとめてみることにしました。といっても私は専門家ではありませんし、私たちに直接関係ない他国の教育制度の話をしてもどれだけ「拍手」をいただけるか疑問なのですが、私自身の勉強も兼ねて。

今回は、IDEA について書きます。

■ IDEA とは何か

IDEA は、Individuals with Disabilities Education Act の略で、障害(障碍)者教育法、個別障害者教育法などと訳されます。アメリカでは特別支援教育の柱となっている連邦法です。この法律に基づき、3~21歳の全ての障害児は、無償で適切な公教育を受けることができます。

IDEA については、既に分かりやすく簡単に解説したウェブページがあります。私があれこれ説明するよりこの弁護士による解説をご紹介した方がよほどいいと思うので、そうすることにします。

MtBook USリーガルサービス・教育法のページ
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↑ ページ前半「特殊教育のための特殊規定」が、IDEA の解説です。ページ後半「差別のない学校へ」は関係ありません。

■ 場面緘黙症は IDEA に基づく教育支援の対象になる場合がある

場面緘黙症は IDEA に基づく教育支援の対象になる場合があり、実際にこの教育サービスを受けている子どもたちがアメリカにはいます。IDEA は障害者教育の法律であり、場面緘黙症を「障害」とすることに納得がいかないという方もいらっしゃるかもしれませんが、この法律についてはこう解釈されるのが実際です。

実は IDEA が定める「障害」には、場面緘黙症は明記されていません。IDEA が列挙した障害は、精神遅滞、聴覚障害(難聴)、発語または言語の障害、視覚障害(失明含む)、重度の情緒障害、整形外科的障害、自閉症、外傷性脳損傷、その他の健康障害、特定学習障害、盲ろう、重複障害です。

ですが、緘黙児によっては、これらのどれかに該当するとみなされる場合があります。アメリカの場面緘黙症支援団体 SMG~CAN は、緘黙を「その他の健康障害」に分類されるという解釈をすすめています。また、SMG~CAN によると、「重度の情緒障害」や、「発語または言語の障害」に、緘黙児が該当するとされる場合があるそうです。

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■ IEP(個別教育計画)を作る

IDEA と言えば、特に話題になるのが、IEP という教育計画です。

IEP は Individualized Educational Plan の略で、個別教育計画などと訳されます。先ほどの MtBook USリーガルサービスのページにも書かれてありますが、特別な支援が必要な子どもに対し、それぞれの子どものニーズに応じて立てられる教育計画のことです。この計画は、親、教師、専門家、場合によっては子どもをも含めたチーム(IEP チーム)により策定され、書面化されなければなりません。ほかに、IEP は実行に移された後、少なくとも年に1回、IEP チームによって見直しがなされなければならないなど、そのあり方については IDEA で細かく定められています。

IEP をめぐって親と他の IEP チームメンバーの間で齟齬が生じた場合、調停や、最終的にはデュープロセスヒアリング(日本語だと、適正手続審問?)などによる解決を行うことができます。先ほどご紹介したMtBook USリーガルサービスのページで詳しく書かれてあるのはこのことです。民事裁判に似ているとか、弁護士がどうとか書かれてありますが、訴訟社会や契約社会と言われるアメリカの一面を見るような気がします。書面化された IEP は、言ってみれば契約書のようなものなのでしょう。

IEP チームには親もメンバーとして参加するわけですから、これに基づいた教育を緘黙の子に受けさせようと考えている親にとっては、IEP は大きな問題です。特に緘黙の場合、支援に詳しい学校関係者や専門家が必ずしも多いとはいえない状況はアメリカも同じですから、満足いく支援を受けるには、その分親が動かなければならないようです。このため、アメリカでは緘黙支援団体などが IEP について親向けに詳しい解説を行うことがあります。これらの解説を読むと親の負担が大きそうだなと感じるのですが、反面、親は自分の子どもが受ける学校教育の計画作りに参加できるわけですし、一方で、子どもは自分に合った綿密な計画で教育支援を受けられるわけで、好ましい面もあると思います。

■ 注意!

繰り返しますが、場面緘黙症は IDEA に基づく教育支援の対象になる「場合がある」ということです。IDEA による教育支援を受けていない緘黙の子もたくさんいます。

■ 次回?予告

次回か、または近いうちに、IDEA とよく比較される Section 504 についてまとめます。IDEA の理解を深めるために、両者の比較もする予定です。

[関連記事]

◇ 米国の Section 504 に基づく緘黙児の教育支援
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[参考にしたウェブサイト、ウェブページ]

※ 全て、2011年11月9日最終アクセス。

◇ IDEA Website - IDEA - Building The Legacy of IDEA 2004. http://idea.ed.gov/
↑ 米国教育省による、IDEA 専門のウェブサイト。IDEA の解説、条文など。

◇ National Dissemination Center for Children with Disabilities. http://nichcy.org/
↑ アメリカの全国障害児普及センターのウェブサイト。情報が豊富です。

◇ Eductional Planning, IEP, IDEA, and 504. http://www.selectivemutism.org/resources/library/index_html/eductional-planning-iep-idea-and-504
↑ 米緘黙支援団体 SMG~CAN によるページ。IDEA や IEP について、緘黙児の親に向けて解説。

[その他、勉強になりそうなページ]

◇ 松田美智子(1997)「場面緘默児Y・H君が声を出して話せるまでの場面設定の試み : IEPの考え方を取り入れて」『情緒障害教育研究紀要』16, 111-122.
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↑ 本文へのリンクあり。CiNiiへのリンク。CiNiiは国立情報学研究所が提供するサービス。