[緘黙] 高校の卒業式 [ストーリー]

2011年12月01日(木曜日)

このブログでは、私の過去を連載形式で振り返っています。今回は高校生編の第22回です。通算第80話をお届けします。

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国立大学一般入試(前期日程)の合格発表の前に、高校の卒業式とその予行演習がありました。

私はこの頃も、前期で不合格だったときのために、後期対策の勉強を続けていました。また、歯医者にも継続して通っていました。

予行演習の日、私は赤本を学校に持ち込んで復習していたら、「ヒロシ、まだ受験勉強やってるん!?」と、あるクラスメイトに驚かれました。このクラスには国公立を受験しない私大専願の人や、推薦入試を狙った人などもいて、そうした人たちはすでに進路を決め、受験勉強も終えてしまっていたのでした。

■ 「大学デビュー」って、なんだ

無事に予行演習を終えた後、私は訳あって教室に残っていました。私の側では、何人かのクラスメイトたちが談笑していました。

「○○(人の名前)、大学デビューなんてしないでよ!」

大学デビューなる、耳慣れない言葉を聞きました。ずいぶん後でその意味を知ったのですが、なんでも高校まで地味だった人が、大学に入って急に派手になるようなことを言うそうです。若者の間では、けっこう知られた言葉だったようです。

たとえば、おとなしくて地味で緘黙気味の私が、大学に入った途端、髪を茶色に染めたナウいヤングに変身し、トレンディーな繁華街でかわいこちゃんを言葉巧みに引っ掛け始めたとしましょう。すると、それも大学デビューというのでしょうか。

大学という新しい環境に入ると、周囲には高校時代までの自分を知る人が誰もいないため、それをきっかけに自分を変えようとする人がいるのかもしれません。

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■ 卒業式の日

そして、卒業式。私の高校は生徒が多かったせいか、卒業生が1人1人壇上に上がって卒業証書を授与される、といったことはなく、クラス委員長が代表してクラス全員の証書を受け取りました。よく話題になる、「卒業証書授与のときに、緘黙の子が"ハイ"と言えるか」といった問題も、このときはありませんでした。

最後の終礼で、担任のD先生が気になることをおっしゃっていました。

「お前たちは小学校に入学した時から今日まで、学校ではクラスという単位で行動してきた。だが、こうやってクラスという形で集まるのは、今日が最後になる」

大学には、小学校~高校のようなクラスがないというのです。大学というのは一体どんなところなのだろうかと思いました。そして、そういうところで私はどう過ごしていけばいいのか、見当もつきませんでした(大学や学部学科によっては、クラスがある場合もあります)。

「富条君は大人しいし、この先、うまくやっていけるのかな」あるクラスの女子生徒が、私のことを心配していたと聞きます。この女子生徒は私に直接声をかけてくれたことがほとんどない人で、同じクラスメイトでありながら、私とは最後まで接点が少ない人でした。ですが、陰ではよく私のことを話していて、しばしば私の身を案じ、見えないところで親切にしてくれたりしていると、彼女の女友達が繰り返し教えてくれていました。私はこの女子生徒のことを忘れまいと思いましたが、彼女の予感は私の不安と重なるものでした。

卒業式終了後、クラスの副委員長に、この後打ち上げがあるから参加しないかと声をかけられました。昔からクラスで孤立しがちだった私がこのような場に誘われたのは、このクラス生活最後の日が初めてでした。ですが、国立大学の2次試験(後期日程)を控えた私は、お断りしました。

卒業と言われても、あまりピンときませんでした。私は大学受験で結果を出したときこそが、自分の真の卒業だと考えていたからです。3年前、高校の仮入学の日に「高校受験の失敗を大学受験で取り返す」と決めた初心は、まだ私の胸にあったのでした。

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