[緘黙] 「あの富条が、満面の笑み」 [ストーリー]

2012年01月10日(火曜日)

このブログでは、私の過去を連載形式で振り返っています。今回は高校生編の第23回です。通算第81話をお届けします。

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■ 合格発表を見に行く

3月の上旬、国立大学一般入試(前期日程)の合格発表が行われました。

私が受験した国立大学では、大学構内の掲示板で発表が行われることになっていたので、私は当日大学まで見に行くことにしました。

たいていの受験生は早く見に行こうと、合格発表が始まる時刻の前後には大学に到着できるよう予定を組んでいる様子でした。ですが、私は敢えて遅めの、あまり受験生がいないと思われる時間帯に見に行くことにしました。交通機関の混雑を嫌ったためですが、人が多く集まる場所に苦手意識を持っていたからというのも一つの理由でした。

私が大学に着いた頃、思った通り受験生はほぼ帰ってしまっていて、合格発表掲示板の周辺にはほとんど誰もいませんでした。そして、私は掲示板を眺め、自分の受験番号があるかどうかを確かめました。ですが……





「どう、合格した?」

ここの大学の学生と見られる若い女性が、私に声をかけてくれました。

私は首を横に振りました。

「そう。残念だったね。後期の試験、頑張ってね」

親切な学生です(新入生を何かのグループに誘い入れようとしたのかもしれませんが……)。この大学は後期では受ける予定はありませんが、この大学のことは忘れません。

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ですが、家に帰る前に、念のためもういちど掲示板を確かめることにしました。緘黙が関係していたのかどうかは分かりませんが、私は自分に自信の持てない男でした。自分が受験番号を確かめるという行為がきちんとできるのかどうかさえ、自信が持てないありさまでした。このため、念入りに確認した方がよいと思い、そうすることにしました。

そうすると、見つかったではありませんか、私の受験番号が。

私は合格したのでしょうか。ですが、まだ自信が持てません。「富条」と名前が明記されていたら分かりやすいのですが、そうではなく受験番号での発表だったので、どうにも確信できません。

この後、親に電話をしました。合否を伝えるよう、親から言われていたためです。

親「どう、受かった?」

富条「分からない」

親は私に怒声を浴びせ、電話を切ってしまいました。

■ 高校へ

この後、私は高校に直行しました。私の合否の最終確認と、お世話になった先生にご挨拶をするためです。実は、私が合格した大学は地元の大学だったので、高校にはわりとすぐに移動することができました。ですが、そもそも合格発表を見に行った時刻が遅かったもので、学校に着いた頃にはすでに暗くなっていて、校内は静まり返っていました。

職員室のドアを開けたところ、職員室はガランとしていて、担任のD先生を含むほとんどの先生が帰ってしまわれていました。

ただお一人、3年特進上位クラスの担任E先生だけが残業されていました。先生は、私がドアを開けた瞬間、私に気づいてくださり、早足で私に歩み寄られて、開口一番

「やーやーやーやー、富条君。おめでとう」

そして、握手をしてくださいました。なんでも合格の知らせは学校に届いているとのことで、ああ、やはり自分は合格したんだとやっと確信しました。

このときも、私は相変わらず無言、無表情のままでした。不思議なものです。私は高校受験で失敗して以来、この失敗を大学受験で挽回すると誓い、この3年間、勉強を中心とした生活を送ってきました。このために、緘黙の克服を犠牲にまでしました。それがようやく報われたというのに、うれしい顔一つもしないものですから。そういえば、私は高校受験に失敗した時も、無表情でした(第57話参照)。緘黙とはこういうものなのでしょうか。それとも、私が変わりすぎているのでしょうか。

余談ですが、私とともに高校受験を失敗したいじめっこB君、私と同じ高校に通っていた彼ですが、最難関レベルの国立大学に現役合格したことを後日知りました。彼は高校受験で不合格だったとき、無表情の私とは対照的に相当悔しがっていたのですが、悔しさをバネにしたのでしょうか。

■ 帰宅後

学校から帰った後、担任のD先生から電話がありました。

「富条、おめでとう。E先生から聞いたよ。さっき職員室に来てたんだってな。E先生は『あの富条が、いままで見せたことない満面の笑みで合格を喜んでた』とおっしゃって……私は早く帰ったことを後悔したよ」

?と思いながら、D先生の話を黙って聞き、受話器を置きました。E先生はどうしてこんな事実とは違うことをD先生におっしゃったのか分かりませんでした。もしかするとE先生は、D先生に喜んでいただくために、敢えてこうした作り話をされたのかもしれません。

なんにせよ、私の高校生活は幕を閉じました。次は、大学です。

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◇ [緘黙] 高校時代のまとめ [ストーリー]