イスラエルの緘黙専門家が書いた本

2012年04月17日(火曜日)

The Selective Mutism Treatment Guide: Manuals for Parents, Teachers, and Therapists今回は、The Selective Mutism Treatment Guide: Manuals for Parents, Teachers, and Therapists という、場面緘黙症の本を読んだ感想を書きます。

■ 基本情報

本書のタイトルを和訳すると、『場面緘黙症治療ガイド:親、教師、治療専門家へのマニュアル』といったところでしょうか。表紙に書かれてある 'still waters run deep' とはことわざで、「深い川は静かに流れる」などと訳されます。

本書は2011年に出た新しい本です(Amazon には2012年1月との表記あり)。洋書はよく発行地の記載があるのですが、それによると、この本はエルサレム(イスラエル)で発行されたそうです。

著者の Ruth Perednik 氏はイスラエル在住の心理学者で、これまで20年にわたって緘黙の治療を専門にしてきました。現在も Selective Mutism Treatment Center という緘黙治療専門の診療所を運営するなどしています。イスラエルに出生時から在住している方ではないらしく、University College London で学位を取得したことがあり、Wikipedia にはロンドン生まれという記述も見えます。

■ 内容

本書の内容は、緘黙児に介入する方法をまとめたマニュアルです。英米などで主流の行動療法が中心です。幼稚園から小学校までの年少の子どもを主に念頭に置いた本ですが、10代の子に対する支援にも言及があります。

実は、同様の本は他にも刊行されています。英語圏のもので代表的なものは以下の3つでしょう。これらのマニュアルはいずれも本書と同様、行動療法による支援が主軸ですが、それぞれ多少の違いがあります。

○ The Selective Mutism Resource Manual
⇒ イギリス。2001年。専門家向け。

○ Helping Your Child with Selective Mutism
⇒ カナダ。2005年。邦訳書『場面緘黙児への支援』が出ています。保護者向け。

○ Helping Children With Selective Mutism and Their Parents
⇒ イギリスの名門・オックスフォード大学出版局から出ていますが、アメリカの本と言えます。2010年。教師やスクールカウンセラーなど、学校関係者向け。

今回の本の最大の特徴は、行動療法による支援の体系を、親、教師、治療専門家のそれぞれ三者の視点でまとめていることです。構成も(1)親向けマニュアル、(2)教師向けマニュアル、(3)専門家向けマニュアルの三章立てです。類書はこの三者の協調の必要性を意識しながらも、こうした書き方はしていませんでした。例えばカナダの Helping Your Child with ...(邦訳書『場面緘黙児への支援』)だと、'management team'(邦訳書では「支援チーム」)による三者の協調の重要性を指摘しながらも、本としては親の視点からまとめられたものです。よく差別化が行われていると感じます。

反面、本書は類書と比べると、親向けのマニュアルとしては分量が少なく、また、教師向け、専門家マニュアルとしてもページ数が少ないとは言えます。また、各章の内容に一部重複があります。

著者の経験に裏打ちされた手法は具体的かつ実践的で、有用そうなのですが、果たしてこれと同じことをどこまで日本で実行できるだろうかと思います。ですが、カナダの指導書の邦訳書『支援』も、その方法を日本でそのまま実践するのは必ずしも簡単ではないものの、これを参考にするなどというかたちで支援に役立てている方がいらっしゃいます。本書も同様の付き合い方をするのがよいだろうと思います。

本書は類書と同様、手に取りやすいところが一つの魅力です(Resource Manual はそうでもありませんが……)。価格は2,000円台前半で、軽くて手軽に持ち歩くこともできます。英文は洋書としては平易で、日本で言えば高校卒業レベルぐらいではないかと思います。英語に自信がある方は読んでみると面白いかもしれません。