[緘黙] 意中の先生と接触する [ストーリー]

2012年11月01日(木曜日)

このブログでは、私の来し方を振り返り、連載形式で書き続けています。今回は大学生編の第8回です。通算第90話をお届けします。

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大学といえば、なんといってもゼミでしょう(ゼミのない大学・学部学科ご出身の方、ごめんなさい)。

この大学・学部は前期・後期制だったのですが、大学2年の前期の頃には、私は来期から始まるプロゼミのことを強く意識するようになりました。

■ プロゼミは2年後期から始まるゼミの入門版

当時の私の大学・学部では、3年からゼミ(ゼミナール、演習)が必修となっていました。ゼミとは、特定の指導教官のもと少人数で行われる授業です。この大学・学部では、ゼミは3年から4年まで2年間一貫して行われ、卒業論文もゼミ単位で発表することになっていました。

そして、その前の段階として、2年の後期にはプロゼミというものがやはり必修とされていました(大学によっては基礎ゼミという名称だったりと、様々のようです)。これはゼミの入門版といったところです。制度上は、2年の後期にある教官のプロゼミに入った後、3年からは別の教官のゼミに入ることも可能だったのですが、たいていの学生は、プロゼミもゼミも同じ教官のところに続けて入っていました。つまり、2年の後期にどの教官のプロゼミに入るかで、卒業までの2年半所属するゼミがほぼ決まってしまうのです。

プロゼミにしろ、ゼミにしろ、教官によって内容は大きく変わってきます。授業内容はもちろん、ゼミ生の間の先輩・後輩等の人間関係の深さにも違いがありますし、ゼミによっては合宿に行くところもありました。

どの教官のプロゼミ、ゼミに入るかは、学生にとっては悩みどころです。純粋に教官の専門分野にひかれて選ぶ学生もいれば、授業内容を基準に選ぶ学生など様々でした。

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■ 意中の先生の研究室にお邪魔する

私には以前から、S教授(仮名)という、意中の先生がいました。ですが、本当にS先生のプロゼミに入るか、まだ決めかねていました。というのも、この先生がどういう方か、まだよく分からなかったからです。普通に学生生活を送っていただけでは、先生に触れる機会がなかったのです。

ですが、幸い、S先生が受け持つ講義の一つが、2年生以上の学生を対象に開講されていました。そこで、この講義を受けることにしました。

最初の講義終了後、S先生は「何か気になったところがあれば研究室に来るように」とおっしゃって帰って行かれました。これはチャンスだと考えた私は、先生の言葉に乗じて、研究室にお邪魔することにしました。私にしてはずいぶんと思い切ったことをしたものですが、それだけ、どの教官のゼミを選ぶかを真剣に考えていたのでしょう。また、同じようなことを過去にも何度か繰り返していました(第86話参照)。

緊張する中、研究室の扉をノック、「失礼します」と小声で言いながら(小声しか出ない)扉を開けました。研究室には先生お一人しかいらっしゃいませんでした。「『何か気になったところがあれば研究室に来るように』と先生がおっしゃったので……」と簡単に要件をお話しすると、先生は「そうか、アッハッハッ」と笑われ、お話を初めました。

■ 自分から話ができず、ただ先生のお話を聞くだけ

妙なことに、私がS先生に質問をしに来たはずなのに、私はS先生に話をすることがほとんどできませんでした。ほぼ一方的に、S先生が私にお話を聞かせるという妙なやりとりでした。場面緘黙症?がかなり改善していたとはいえ、私はまだまだ無口でした。加えて、私は長年人とまともに会話をしたことがなかったため、会話の仕方がまるで分からず、ただS先生のお話を聞くことしかできなかったのです。何かを口に出さないとと焦りながらも、私からは何も話ができませんでした。

S先生のお話は長時間にわたりました。私はいい加減なところで研究室を後にしないと忙しい先生のご迷惑になると気にしていたのですが、私が話下手で適当なところで切り上げられなかったからか、S先生がお話し好きだったからか、S先生のお話は1時間、2時間と続きました。

困ったところでしたが、反面、今まで十分に分からなかったS先生のことが次第に明らかになってきました。S先生はこの大学に長年勤務されているベテランの男性教授でした。近年立て続けに本を出版されていたのですが、そうしたところ、著書の一つが、ある賞に選ばれたとのこと。S先生がここにきて出版を続けられていた理由は、このときの私には分かりませんでした。ほっそりされた先生でしたが、「昔は太っていたんだ」とおっしゃいます。

S先生のお話を聞いていたところ、ゼミ生が入ってきました。S先生はゼミ生に、就職について親身に相談に乗っていました。精力的に研究をされている上、学生の指導もしっかりされている熱心な先生だという好印象を持ちました。

結局、S先生にはほとんど何も言えないまま、研究室を後にしました。研究室に入室して3時間ぐらいは過ぎていたでしょうか。S先生がどういう方か今までより分かったことは収穫でしたが、変な学生だとは思われなかっただろうかとか、先生に長時間おつきあいいただいてご迷惑ではなかっただろうかとか、色々なことを考えました。

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◇ [緘黙]続・意中の先生と接触する[ストーリー]