英語圏では「緘黙症」は何と呼ばれているのか

2006年01月14日(土曜日)

Google検索

"場面緘黙" 766件
"選択緘黙" 238件
"選択性緘黙" 200件

"selective mutism" 125,000件
"elective mutism" 19,100件

前回の「私の場面緘黙症」という記事の中で、私は上のようなデータを挙げ、「英語圏の方が、情報量が豊富そう」と書いてしまいました。この数字だけを比較すると、英語圏の情報は日本語圏のそれに比べておよそ100倍の差があるように思えます。

しかし、もう少しGoogleの検索結果を詳しく見てみると、例えば "selective mutism" だと 125,000件の検索結果が出たはずなのに、最後まで見ていくと 746件 で終わってしまい、「最も的確な結果を表示するために、上の746件と似たページは除かれています。検索結果をすべて表示するには、ここから再検索してください。」というメッセージが出てしまいます。"elective mutism" の場合も同様で、 実質は755件 にすぎません。

結局、英語圏でも情報は少ないということなのでしょうか?うーむ、よく分かりません。

いずれにせよ、英語圏のサイトを見ていくと、日本語サイトでは知ることのできない思わぬ情報が見つかるかもしれません(実際、見つかります)。そういうわけで、これからこのブログでは場面緘黙症を扱った英語サイトをざっと見ていくことにしようと思っています。

しかし、その前に英語では緘黙症をどう呼んでいるのか、言葉の整理から始めることにしましょう。英語に関心のない方であれば、今回のお話は退屈かもしれません(えっ、このブログはいつも退屈だって?そんなこと言わないで…)。

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場面緘黙症の英語圏での呼称

場面緘黙症は、英語では主に次のように呼ばれています。

selective mutism
selective mute
SM
elective mutism
elective mute

現在、正式な呼称は "selective mutism" です。二番目の"selective mute" には "mute" という形容詞が含まれていますが、"selective mute" 全体で名詞的に使われることもあります。3番目の"SM"というのは略称になります。

4番目の"elective mutism" というのは旧称です。5番目の"elective mute" は "selective mute" に同じ。しかし、なぜ呼称が変わったのでしょうか。Wikipediaの "Selective mutism" の記事(2005年12月14日)によると、次のような事情からだそうです。http://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Selective_mutism&oldid=31269582


* 以下引用 *

The former name elective mutism indicates a widespread misconception even among psychologists that selective mute people choose to be silent in certain situations, while the truth is that they are forced by their extreme anxiety to remain silent; despite their will to speak they just cannot make any voice. To reflect the involuntary nature of this disorder, its name has been changed to selective mutism in 1994.

[ 富氏訳(訳の品質は保証しません)]

前の呼称である elective mutism は、心理学者の間にさえ、誤解を広めさせかねないものを暗示するものです。その誤解とは、場面緘黙の人々は特定の状況で黙っている状態を選択している、というものです。正しくは、彼らは極度の不安で黙っている状態を強いられているということなのです。彼らは話したいという意思を持っているにも関わらず、全く声を発することができないのです。この障害の自発的でない性質を反映させるために、1994年、その呼称は selective mutism に変更されたのです。

* 引用終わり *

恥ずかしながら、私は、長年英語を勉強しているくせに "selective" と "elective" の違いが分からないのですが、何はともあれ「緘黙児は、自分の意思で話さないことを『選択』しているのだ」という誤解を与えかねない表現だから変わった、ということのようです。

それから、Stephen R. Hooper ほかが1993年に編集した Child Psychopathology PR(Lawrence Erlbaum Associates)によりますと、場面緘黙症は、Adolf Kussmaul という人が1877年にこれを "aphasia voluntaria" と名づけたのが最初なんだそうです。よく分からないのですが、"voluntaria" という語がある以上、やはり自発的に話さないという意味合いがあったのでしょう。

その後、"speech inhibition" "speech shyness" "thymogenic mutism" "functional mutism" "speech avoidance" などと色んな呼称が登場しました。結局のところ、1934年に Moritz Tramer が名づけた "elective mutism" が1994年まで定着したようです。(410ページ)

全緘黙は "total mutism"

あらゆる場面で緘黙になってしまう全緘黙は、"total mutism" と呼ばれます。

selective mutism や total mutism ではない mutism

selective mutism や total mutism以外にも、mutism という名のつく症状があります。

akinetic mutism 「無動無言」
cerebellar mutism「小脳性無言」
deaf-mutism「聾唖」
hysterical mutism(日本語訳不明)

いずれも、場面緘黙症とは関係がありません。もっとも、Google で "mutism" と検索すると、ほとんどが "selective mutism" に関するサイトです。

そもそも mutism, mute とは何なのか

mutism は名詞。mute はその形容詞になります。

Merriam Websters Collegiate Dictionary(第11版)によりますと、mute には "unable to speak : lacking the power of speeh" などの意味があります。要するに話さない、話せないことです。

よくカラオケなど、音量の調整で音を消すことを「ミュート」と言ったりしますが、それは mute という英語からきたものです。

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言葉の整理はこのぐらいにしまして、次回からはいよいよ英語圏の緘黙サイトについてお話します。

番外

選擇性緘默症(中国)
Selektiver Mutismus(ドイツ)

注. この記事は、2005年12月17日にニートひきこもりJournal に掲載した記事を一部編集したものです。