『あなたの隣の話さない人-緘黙(かんもく)って何?-』

2013年07月09日(火曜日)

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あなたの隣の話さない人-緘黙(かんもく)って何?-』という電子書籍(Kindle 版)を読んだ感想を今回は書きたいと思います。

著者は場面緘黙症の経験者で、著書もある北野慶氏という方です。北野氏は6年前、場面緘黙症Journal 掲示板に投稿されたことのある方で(本の中でも言及があります)、お心当たりのある方もいらっしゃるかもしれません。執筆時期は分かりませんが、掲示板の書き込みなどから推測して早くても2007年以降と思われます。電子書籍というと敷居が高いと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、価格は電子書籍らしく、類書と比べると最も低価格の設定です。

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内容は、独自の取材と、著者自身の緘黙並びに後遺症の経験を織り交ぜた独特の構成です。特に、著者自身が緘黙の研究を行った故山本実氏(岩手大学)の関係者や、『君の隣に』のさくらかよさん、緘黙経験者らと実際に会って取材を行い、内容に盛り込んでいる点が大きな特徴で、読み応えがあります。

本書の意義の一つは、山本氏とその著書に光を当てた点だと思います(偉そうな書き方ですみません)。かつて日本における緘黙研究者というと、今日でも Amazon.co.jp などで比較的入手が容易な『場面緘黙児の心理と指導』を著した故河井芳文氏が知られています。山本氏は、この河井氏と同時期に本を3冊出版したり、著書がNHKの「ファミリージャーナル」や『読売新聞』教育欄で取り上げられたりと、緘黙児支援に大きな役割を果たした方なのですが、その著書が今日入手しにくく、あまり知られにくい状況です。著者は、現在では貴重な山本氏の著書を紹介、引用するとともに、山本氏の関係者から取材を行い、山本氏の功績やその人となりを伝えています。引用されている山本氏の著書の内容からは、今日なお得るところが多いです。

また、緘黙というと、小学生あたりの小さな子どもに焦点が当たりやすいですが、著者は後遺症や恋愛問題など、思春期以降の当事者が抱える問題も取り上げています。この点も意義が大きいと思います。

ただ、一点、物議をかもしそうな箇所があります。それは、著者が精神状態が不安定な思春期(高校時代)に学校社会で孤立感を深め、強迫性障害を病み、そうした中で、ある妄想を抱くようになったことが書かれている箇所です。妄想の内容はショッキングなもので、そうしたことに敏感な方は注意した方がよいです。

私は本書に限らず、緘黙の手記はあくまで個人の経験として読んでいるのですが、それにしても大変思い切ったことを書かれたものだとびっくりしました。私なら絶対書けません(※ 私には妄想の経験はありません)。私もレベルの違いこそあれ、このブログで自分の経験を書いてきたのですが、なにしろ私的な経験なので、内容によっては公にするのを躊躇することが多いです。

ただ、著者の妄想に関する箇所は全体の数%ですし、著者が伝えたい部分は他にもあるようなので、本書については全体を読んで評価していただきたいとも思います。

※ 緘黙児・者が本書のような極端な妄想を持つことは、そうはありません。だいいち、妄想は緘黙の症状ではありません。いずれにせよ、緘黙児・者が追い詰められないよう、早めの支援は肝要です。

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