緘黙児への短期集中型行動療法(後編)

2014年03月05日(水曜日)

アイキャッチ画像。写真素材サイト PAKUTASO より。
緘黙児への短期集中型行動療法(前編)」の続きの記事です。

おさらい


Brave Buddies は、米国の民間機関 Child Mind Institute による、場面緘黙症の集中プログラムです。

緘黙児を多数集め、緘黙児にとって安全な環境の模擬教室を設定し、そこで発話を促します。 定員は12人で、1対1でカウンセラーがつきます。 1週間のプログラムと1日のプログラムがあります。

Brave Buddies の効果は


Brave Buddies が緘黙児の発話にどれほど効果があるのかは、確かな報告を読んだことがないので私には分かりません。

Edson ら(2012)は、Brave Buddies については現在のところランダム化比較試験が行われておらず、研究結果についての報告はないとしています。

Kotrba(2010)は、ニュースレターの中で、認知行動療法と Brave Buddies の両方の治療を受けた緘黙児のグループは、認知行動療法のみのグループに比べて6か月後の予後が有意に良かったとしています。ですが、この研究の引用元や詳細が示されておらず、一次情報がつかめない私にはもうひとつ判断ができません。

Barlow ら(2014)は、Brave Buddies とよく似たボストン大学の Brave Buddies Camp(後述)では、参加した緘黙児15人のうち80%が、2年後のフォローアップで、発話を始めたり、speech productivity(どう訳せばよいかよく分かりません)を維持したりするのに成功したとする研究結果を引用しています。ですが、これもまた一次情報がつかめない私にはもうひとつ判断ができません。

広がる Brave Buddies


この Brave Buddies に影響を受けた支援者がいて、オークブルック(シカゴ郊外)やボストン、アナーバー(ミシガン州)でも、Child Mind Institute とは別に、これとよく似た、緘黙児への短期集中型集団プログラムが行われています。このうちボストンは、米国の名門大学のひとつボストン大学によるものです。

オークブルック(Selective Mutism Adventure Camp)
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ボストン(BU Brave Buddies Camp)
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アナーバー(Confident Kids Camp)
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思うところ


Brave Buddies が他の行動療法プログラムと違う点は、1日6時間、5日間のプログラムだと合計30時間にわたって集中的に行うことです。この点に関して Child Mind Institute は、Brave Buddies により「過剰学習」(over-learning)を行うとしていますが、この過剰学習が Brave Buddies の背景にある考え方と私は解釈しています。過剰学習は、行動療法の基礎である学習心理学の用語です。学習がある一定水準に達したのち、さらに同じ訓練を繰り返して学習することを言います。これにより、学習された内容はさらに固定化されます。これを緘黙児支援に応用し、繰り返し発話を促して発話行動を固定化させるということなのでしょう。過剰学習を行うには、Brave Buddies のように集中的なスケジュールで行動療法を行う以外に、なかなか方法はないだろうと思います。

もう一つの特徴は、緘黙児に個別に行動療法を行うのではなく、多人数で行うことです。この狙いは公式サイトなどからはっきり読み取れなかったのですが、やはりある程度の人数の緘黙児を集めないと、実際の教室に似た環境設定はできないだろうと思います。多人数の緘黙児を集めることにより、子ども同士のコミュニケーションをとらせる場面を作ることもできますし、プログラムの内容の幅も広がりそうです。

模擬教室で行動療法を行うのは、行動療法の効果を実際の教室でもできるだけ持続させるための工夫でしょう。専門用語では「般化」と言うそうです。例えば、どこか専門的な施設の相談室で話せるようになっても、学校に行けばまた話せなくなっては意味がありません。般化は緘黙児支援のひとつの大きな課題ですが、模擬教室での行動療法だとこの課題も克服しやすいかもしれません。ただ、これについては、初めから放課後の教室などで行動療法を行う方法もあり、模擬教室で行う方法とどちらが効果があるのかは分かりません。

Brave Buddies の有効性はどの程度のものか、そしてこれからどれだけこうした集中的方法が広がるのか、気になるところです。Brave Buddies の実施はハードルが高く、簡単には広がらないかもしれません。多人数の緘黙児とスタッフを同時に集め、長ければ5日間連続してプログラムを行うのはかなり力のある支援者でなければ難しいでしょう。ですが、こうしたハードルがあるにもかかわらず、既に Brave Buddies は広がりを見せています。Brave Buddies の今後に注目したいと思います。

参考にしたもの


◇ Edson, L.A., Comer, S.J., Pincus, B.D., Puliafico, A., Kurtz, S., and Eyberg, S. (2012). New Directions in the Adaptation of Parent-Child Interaction Therapy for Early Childhood Internalizing Disorders.
http://pcit.ucdavis.edu/wp-content/uploads/2012/08/15_Edson-et-al.-PCIT-Presentation-for-UC-Davis.pdf

◇ Kotrba, A. (2010). Unlocking the Mystery of Selective Mutism Quarterly Newsletter, (1), 1.
http://www.selectivemutismtreatment.com/images/Newsletter_SM.pdf

◇ Barlow, H.D., and Durand, M.V. (2014). Abnormal Psychology: An Integrative Approach (7th ed.), Cengage Learning, Stamford, Connecticut.
※ 実は、本の内容は Google ブックスで読んだものです。