大人の緘黙症、国内の研究を見る(1)

2014年04月03日(木曜日)

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今年で9年目に入った場面緘黙症Journalブログですが、意外なことに、大人の緘黙症を正面から扱った記事を書いたことが今までなかったことに気付きました。そこで、今回から書いてみることにします。

ここで言う大人の緘黙症は20歳以上の人の緘黙症のこととしますが、18歳、19歳の緘黙症についても参考として扱いたいと思います。というのも、海外の大人の緘黙症についても将来見ていきたいからです。海外で大人というと、多くの場合、18歳以上でしょう。

専門的には、大人という表現よりは青年期といった表現の方が好まれるのでしょうが、ここでは気にしないことにします。

まずは、地道に日本の先行文献を年代を追って眺めることから始めます。全ての文献を読むことはできませんが、私が読めた範囲で。

竹山孝二、大原健士郎、野崎次郎、田代宣子 (1976)「姉妹にみられた緘黙症の検討」『心身医学』16(2)、 13。


年齢は不明ですが、約20年間精神薄弱として育てられ、緘黙の症状を示した姉妹例です。約20年間も緘黙を続けたのですが、入院加療により比較的早期に会話が可能になったそうです。

このように長期化した緘黙でも改善が可能ということが示されたのは勇気づけられますが、入院までしなければならないのかという思いもないまでもありません。

なお、これは第13回日本精神身体医学会関東地方会の演題抄録として雑誌『心身医学』に掲載されたものですが、抄録とあって、この事例の詳細については『心身医学』ではあまり記されていません。私も詳細は分かりません。
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荒木冨士夫(1979)「小児期に発症する緘黙症の分類」『児童精神医学とその近接領域』20(2)、1-20。


緘黙の分類を目的に、大人の緘黙症を含む34症例が示されています。ただし、各症例については概要が示されているだけで、その詳細は分かりません。一部の症例については、後の論文「小児期に発症する緘黙症の精神病理学的考察」の中で詳細が記されています。

自閉症スペクトラムや統合失調症の緘黙が混じってる?


この論文では、初診年齢34歳の女性と、初診年齢24歳の男性の例が示されています。つまり、34歳や24歳で初受診した当時、緘黙だったということです。

ただし、大井ら(1982)は、34歳女性の例は統合失調症ではないかと指摘しています。また、荒木は24歳の例を第II群(消極的依存型)に分類していますが、この第II群について渡部ら(2009)は、今日で言う自閉症スペクトラムと極めて類似した特徴を持っていると指摘しています。要するに、34歳女性と24歳男性の例は、現在の選択性緘黙の診断基準からは除外されるかもしれません。

少し変わった例として、初診時16歳の全緘黙で、6年後「家の外で多少返事をし」「会話をあまり必要としない仕事」に勤務しているけれども、「家の外では相変わらずまったく話さない状態が続いている」という女性の例があります。これも第II群に分類されるもので、自閉症スペクトラムの可能性があります。

予後が悪い分裂気質型/社会化拒否型


また、症例には初診年齢14歳で8年後には「要求が少しコトバでできる」状態だったという女性(8年後には軽度の緘黙か、緘黙を克服し出したか)、初診年齢5歳で13年後には「ほとんど話さず、人づきあいまったくなし」の男性、初診年齢13歳で8年後には「まったく対人関係をもたず」の例などもあります。

この3例は、荒木の緘黙分類では第III群(分裂気質型)に位置づけられます(ついでに言うと、先程の34歳女性の例も第III群に入ります)。この第III群は、家庭でも話さない全緘黙(的)です。治療導入が困難で、甘えがまったくみられず、治療的働きかけに対して攻撃性がわがままという形ではなく、しばしば破壊的攻撃という形で出現し、ときに精神的混乱を示し、信頼関係が成立しないもので予後のよくない一群であると、荒木は述べています。これは、大井ら(1979)が提唱した緘黙の三分類の type III(社会化拒否型)と似ています。

※ 荒木と大井らは、ともに1979年に緘黙症の三分類を提唱していますが、その内容はほとんど同じものです。面白い偶然です。

この第III群と typeIII は、大人の緘黙症を考える上で注目したいです。荒木、大井らの分類ではともに予後不良群とされ、実際のところ荒木の論文では、大人になっても緘黙が長引くケースはこのタイプに多いからです。

臼井ら (2013)は、荒木や大井らの三分類を再検討しようと、 臼井らが行う緘黙児のための集団活動に参加している幼児・児童10人を、荒木や大井らにしたがって分類を試みたのですが、この第III群に該当する緘黙児は一人もいなかったそうです。荒木や大井らの研究は精神科を受診した、おそらくはより症状の重い緘黙児などが対象で、臼井らはこの第III群はより症状が重い一群と見ます。気づいたのですが、荒木も入院治療をけっこう行っていますね。それだけ重い例を診ているのかもしれません。

大人になって初めて緘黙になった例は、ここではない


荒木論文でみられた大人の緘黙症例の多くは、発症年齢が5歳前後で、最高でも11歳です。いずれも小児期の緘黙が長期化したもので、大人になって初めて緘黙になった例はありません。

続きの記事


◇ 大人の緘黙症、国内の研究を見る(2)

参考1 荒木の緘黙分類


第I群:積極的依存型
甘えと攻撃性をともに十分に発揮。治療導入は容易。さらに Ia と Ib の細分類がある。

第II群:消極的依存型
甘えや攻撃性はあっても少なく、消極的。さらに IIa と IIb の再分類がある。今日で言う自閉症スペクトラムを含むのではという指摘が近年出ている。

第III群:分類気質型
甘えが全くなく、攻撃性は破壊的攻撃というかたちであらわれる。治療導入は困難で、予後はよくない。全緘黙(的)。

参考2 大井らの緘黙分類


Type I:社会化欲求型
家族以外にコミュニケーションを自ら求めるもの。家庭ではおしゃべり。予後は良好。

Type II:社会化意欲薄弱型
家族以外にコミュニケーションを自ら求める意欲に乏しいが、受動的には求めるもの。家庭でも無口。予後はあまりよくない。今日で言う自閉症スペクトラムを含むという指摘が近年出ている。

Type III:社会化拒否型
家族以外にコミュニケーションを拒絶するかの如く求めないもの。家庭内でも選択的に沈黙。予後は暗い。

※ いずれも、似た分類です。重症度を示すものでもあり、予後を推測する目安でもあります。

文献


◇ 荒木冨士夫(1979)「小児期に発症する緘黙症の分類」『児童精神医学とその近接領域』20(2)、1-20。
◇ 荒木冨士夫 (1979)「小児期に発症する緘黙症の精神病理学的考察」『児童精神医学とその近接領域』20(5)、290-304。
◇ 臼井なずな、高木潤野(2013)「緘黙の類型化に関する研究-従来指摘されてきた2つの分類からの検討-」『長野大学紀要』34(3)、1-9。
◇ 大井正己、鈴木国夫、玉木英雄、森正彦、吉田耕治、山本秀人、味岡三幸、川口まさ子 (1979) 「児童期の選択緘黙についての一考察」『精神神経学雑誌』81(6)、365-389。
◇ 大井正己、藤田隆、田中通、小林泉 (1982)「青年期の選択緘黙についての臨床的および精神病理学的研究 -社会化への意欲に乏しい5症例-」『精神神経学雑誌』、84(2)、114-138.
◇ 竹山孝二、大原健士郎、野崎次郎、田代宣子 (1976)「姉妹にみられた緘黙症の検討」『心身医学』16(2)、13。
◇ 渡部泰弘、榊田理恵 (2009)「自閉症スペクトラムの観点から検討した選択性緘黙の4例」『児童青年精神医学とその近接領域』50、491-503。

※ 最後まで読んでくださり、ありがとうございます!