大人の緘黙症、国内の研究を見る(2)

2014年04月09日(水曜日)

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大人の緘黙症、国内の研究を見る(1)」の続きです。大人の緘黙症について考えたいのですが、まずは、日本の先行文献を見ることから始めます。私が読めた範囲で。

◇ 大井正己、藤田隆、田中通、小林泉 (1982)「青年期の選択緘黙についての臨床的および精神病理学的研究 -社会化への意欲に乏しい5症例-」『精神神経学雑誌』84(2)、114-138。


初診年齢20歳男性の症例が1例あります。つまり、20歳にして緘黙状態で、精神科を初受診したケースです。

その他4症例にしても、2~5年後の追跡調査では(追跡調査時の年齢は18~22歳、うち1件は治療継続中)緘黙状態が持続している者が3例、必要最小限の対話が可能な者が1例と、やはり大人やそれに近い年齢になっても発話が十分にできない例ばかりです。

これは、大井ら(1979)による緘黙の三分類を受けた研究です。三分類のうち、Type II の社会化意欲薄弱型と考えられる5例の考察です。

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※ 大井らの緘黙分類
Type I:社会化欲求型
家族以外にコミュニケーションを自ら求めるもの。家庭ではおしゃべり。予後は良好。

Type II:社会化意欲薄弱型
家族以外にコミュニケーションを自ら求める意欲に乏しいが、受動的には求めるもの。家庭でも無口。予後はあまりよくない。今日で言う自閉症スペクトラムを含むという指摘が近年出ている。

Type III:社会化拒否型
家族以外にコミュニケーションを拒絶するかの如く求めないもの。家庭内でも選択的に沈黙。予後は暗い。
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5つの症例は、10歳、13歳と比較的遅い年齢で発症した例も含まれていますが、いずれも幼児期から寡黙傾向があります。大人になってから初めて緘黙を発症した例はやはりありません。

5症例の初診年齢は14-20歳と、いずれも青年期にいたって初めて取り上げられたもので、多くが発症から10年以上経って精神科を初受診しています。どの例も、それ以前に専門家の支援を受けたなどの記述がないことから、早期介入がなされなかった例ばかりではないかと思います。予後が悪いのも、このためかもしれません。なお、前の大井ら(1979)の研究では、早期介入が行われた例の方が、予後はよい傾向がみられます。

社会適応については、「庇護された形であれば仕事に従事することが出来るという意味で良好」とされていますが、庇護された形でというのは、楽観してよいのかどうか。それに、5症例のうち職に就いているものは3例で、残り2例は失業しています。また、たとえ仕事に従事できても「主体的な行動に欠け、対人関係のひろがりに乏しく、identity の確立、自己確立という意味では大きな問題を残している」と著者は述べています。

ただ、この5症例については渡部らが(2009)が検討しているのですが、今日で言う自閉症スペクトラムの特徴に当てはまる記述が多数認められるとしています。自閉症概念が拡大した今日なら、この5症例は選択性緘黙の診断基準には当てはまらない可能性があります。
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◇ 南陽子、門眞一郎、西尾博、大塚隆治、梁川恵、奥田里美、片岡朗(1987)「選択緘黙の社会適応に関する研究」『安田生命社会事業団研究助成論文集』23 (1)、109-129。


現在なお特定場面で話さない19歳男性、24歳女性、23歳女性、21歳男性の症例があります。また、尋ねられれば小声で話す程度の18歳以上の緘黙経験者もさらに6例あります。

これは京都市児童院(児童相談所および診療所)を相談受診した元緘黙児の長期的予後を調査したもので、調査対象者は34名です。義務教育を離れた後の16歳以上の緘黙経験者の社会適応を追う貴重な研究ですが、精神遅滞者も含めている点も珍しいです。34名と多くの症例を扱っているため、論文の中では各症例について概要しか分かりません。

この研究では、予後に影響する要因について様々な角度から検討が行われています。特に、緘黙に何らかの家族要因を著者らが求めた症例は、そうでない症例に比べて予後良好群が少ない結果が出ています。このため、著者は「家族要因は選択緘黙の予後不良因子の1つであることが示唆される」と考察しています。

ただ、この家族要因というのは「過干渉な母親・無関心な父親」「家庭内コミュニケーションの不足・家族性寡黙」「家族に緘黙の既往」「非社会的家族・社会的孤立」など雑多な項目が9項目あり、この項目のうち1つでも当てはまったものが家族要因ありとみなされています。この雑多な9項目を「家族要因」として一つにまとめることは妥当なのだろうかとも思うのですが、よく分かりません。

また、この研究では精神遅滞者や境界線級の知能水準の緘黙経験者も調査対象とされていますが、知的水準については予後とは無関係だったそうです。他にも、症例が少ないことから、予後と関連のある要因について論じることができないものもありました。

また、緘黙解消度と社会適応については正の相関関係が認められました。なお、冒頭でお話した現在なお特定場面で話さない4例のその後の適応状況については、それぞれ家事手伝い(19歳男性です)、蟄居して何もしていない、精神薄弱者更正施設に通所して3年、何も言わなくてもよいという言うことで空き瓶を洗う会社に就職して1年という状況で、集団適応がよくないものが多いです。

京都市児童院を相談受診した元緘黙児の追跡調査ということも関係しているのかもしれませんが、大人になって初めて緘黙になった例の報告はやはりなく、発症年齢は遅いものでも13歳です。特に、3~6歳に集中しています。(続く)

文献


◇ 大井正己、鈴木国夫、玉木英雄、森正彦、吉田耕治、山本秀人、味岡三幸、川口まさ子 (1979) 「児童期の選択緘黙についての一考察」『精神神経学雑誌』81(6)、365-389。

◇ 大井正己、藤田隆、田中通、小林泉 (1982)「青年期の選択緘黙についての臨床的および精神病理学的研究 -社会化への意欲に乏しい5症例-」『精神神経学雑誌』84(2)、114-138。

◇ 南陽子、門眞一郎、西尾博、大塚隆治、梁川恵、奥田里美、片岡朗(1987)「選択緘黙の社会適応に関する研究」『安田生命社会事業団研究助成論文集』23 (1)、109-129。

◇ 渡部泰弘、榊田理恵 (2009)「自閉症スペクトラムの観点から検討した選択性緘黙の4例」『児童青年精神医学とその近接領域』50、491-503。