場面緘黙症の原因を先天的なものに求める説
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場面緘黙症になる原因はよく分かっていないのですが、先天的なものに原因を求める説があります。
今回は、
(1) 脳の扁桃体の過剰反応が強い不安を引き起こし、場面緘黙症の原因になるという説
(2) 染色体の異常が場面緘黙症と関係があるという説(18p-症候群、脆弱X症候群)
をご紹介し、吟味しています。
少々専門的な内容を含み、私も自分で何を書いているか分からない部分があります。そういう意味で、今回の内容は特に危険です。あくまで参考程度にして、鵜呑みにするのはやめましょう。
* * * * * * * * * *
■ 扁桃体の過剰反応が、強い不安を引き起こす!?
最初にお話するのは、脳の扁桃体と呼ばれる、不安を司る部位に少し異常があるのではないかという説です。
子どもの中には、内気な気質を生まれながらに持っている子がいることが、研究の結果明らかになってきています。こうした子は、扁桃体の機能が少しおかしくて、本来であれば不安を感じる必要がない場面でも不安を感じてしまいます。場面緘黙児の場合、例えば学校で扁桃体が過剰反応してしまい、強い不安を感じてしまいます。これに加えて、バイリンガル環境から引っ越したなど、言語面での困難等がひきがねになって、話せなくなってしまうのです…といったところです(SMG-CAN)。
私は思うに、これは社会不安障害(障碍)やパニック障害など、不安障害の説明の援用ではないかと思うのです。こうした不安障害には扁桃体が関与しているという説明がなされることがあるからです(for example, Rosen & Schulkin, 1998)。
ですが、もっともらしい説です。場面緘黙児のほとんどは、社会不安障害や回避性人格障害の診断基準にもあてはまると言われていますからね(for example, Dummit et al., 1995)。
■ 染色体に異常がある!?
★ 18p-症候群
ヒトには46の染色体があります。この染色体に異常があると、子どもは障害をもって生まれてくることがあります。21番染色体がトリソミー(三倍体)を形成することによって生じるダウン症は、比較的よく知られています。
左の図は、似ていないかもしれませんが、いちおう染色体を描いたつもりです。長い腕のような部分が「長腕」、短い部分が「短腕」と呼ばれています。
このうち、特に18番染色体の短腕が欠失したことによる障害を18p-症候群といいます。なお、英語で言うと 18p- syndrome とか monosomy 18p となります。18p-症候群については、ネット上では日本語圏では情報があまりに少ないので、興味をもたれた方は英語で検索するのをおすすめします。
この18番染色体の短腕欠失と、場面緘黙症とが関係あるのではないかという、ケースリポートにもとづいたちょっとマニアックな説があります(Simons et al., 1997; Grosso et al., 1999)。
このうち、「場面緘黙症、言葉の遅れ、異形、および18番染色体短腕欠失:これらは別個のものか(Selective mutism, speech delay, dysmorphisms, and deletion of the short arm of chromosome 18: a distinct entity?)」は、ネット上でも無料で全文を読むことができます。比較的短い英文でまとめられているので、興味をもたれた方はご覧になるといいでしょう。
このケースリポートでは、場面緘黙症をわずらった一人の少女の事例が扱われています。
この少女に核型分析を行ったところ、18番染色体の短腕が欠失していることが分かりました。彼女には、言葉の遅れ、扁平な鼻すじ、広い人中(じんちゅう、鼻の下にあるくぼみ)、小顎症などの顔面異形が認められました。18番染色体短腕欠失は、形質発現、知的障害、自閉症と関係していることが研究の結果、分かってきています。場面緘黙症と18番染色体短腕欠失には関係があるのではないでしょうか…ということです(Grosso et al., 1999)。
みなさま、どうですか?緘黙児をお持ちの親御さん、あなたのお子様は顔面に異形が認められますか?
私は、これはどこかピントがずれていると思うのです。だいたい、私は元緘黙児ですが、顔面に異形なんてありません。先日も、アメリカのABCニュースの場面緘黙症に関する特集「Selective Mutism: When Your Child Can't Speak」をネットで見ましたが、番組に出てきた場面緘黙児・モルガンちゃんは、顔面に異形は認められませんでした。
ただ、場面緘黙児で18p-症候群の子は少ないのかもしれませんが、18p-症候群で場面緘黙症を呈した子は、ある程度いるのかもしれません。
★ 脆弱X症候群
脆弱X症候群は、FMR1と呼ばれる遺伝子の異形から起る症状で、知的障害の遺伝的な原因としては最もメジャーなものです。
外見上の特徴は、細長い顔、大きなまたは突き出た耳、巨大睾丸、低下した筋緊張など。また、行動上の特徴としては、常同行為、内気や視線をあまり合わせないなどがあります。自閉症を罹患していることもあります。
この脆弱X症候群と、場面緘黙症との関わりについて一石を投じたケースリポートが1999年に出ました。
12歳の場面緘黙の女児は脆弱X症候群で、長い間社会不安や内気の症状がありました。彼女の姉もFMR1遺伝子に異常があり、場面緘黙症をわずらっていたことがありました。FMR1遺伝子の異常は、場面緘黙症と関係した最初の遺伝子突然変異であると思われます。場面緘黙児の何%がFMR1遺伝子に異常があるのか、さらなる調査が望まれます…と、まあこんな内容です(Hagerman et al., 1999)。
本当にさらなる調査が待たれるところですが、さらなる調査が行われたという話は少なくとも私は聞いたことがありません。
それにしても、これも18p-症候群と同様に、ちょっとピントがずれているような…?
■ まとめ
結局、場面緘黙児は、扁桃体にも18番染色体にもFMR1遺伝子にも異常があるということでしょう。異常だらけですね!…いや、そんなわけないか。
学界の流れは、場面緘黙症は社会不安障害と関係があるのではないかということのようです(たぶん)。染色体に異常があると見るのは、マイナーな説のようです。何はともあれ、染色体説についても、さらなる研究が待たれるところです。
なにせ、染色体説は1人や2人の症例のケースリポートです。場面緘黙児1人や2人が染色体に異常があったからといって、「場面緘黙はみんな染色体に異常があるんだ」と一般化することはできません。「場面緘黙児には染色体に異常があることがある」なら問題ないと思うのですが、それならば、場面緘黙児でない人にも、染色体に異常があることはあるはずです。
一方、場面緘黙症と社会不安障害の関係については、例えば50人ぐらいの緘黙児を調べて、ほとんどみんな社会不安障害や回避性人格障害だったということで、「場面緘黙児は、一般に社会不安障害や回避性人格障害と関係がある」[注]となっています。
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[注]
すみません。これは間違いです。いくら緘黙児に社会不安障害や回避性人格障害が多かったといっても、「場面緘黙児は、一般に社会不安障害や回避性人格障害と関係がある」とまで言うことはできません。「場面緘黙児は、社会不安障害や回避性人格障害と関係がある場合が多い」という、蓋然性の話にとどまります。(06/07/2006)
[関連記事]
★ ノート−症状、症候群、entity (今回の記事の補足のような内容です)
[参考にしたもの]
★ Dummit III, E. S., Klein, R. G., Tancer, N. K., Asche, B., Martin, J., & Fairbanks, J. A. (1995). Systematic assessment of 50 children with selective mutism. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 36(5), 653-660.
★ Fragile X syndrome. (2006, June 2). In Wikipedia, The Free Encyclopedia. Retrieved June 3, 2006, from http://en.wikipedia.org/w/index.php?title=
Fragile_X_syndrome&oldid=56478991.
★ Grosso, S., Cioni, M., Pucci, L., Morgese, G., & Balestri, P. (1999). Selective mutism,
speech delay, dysmorphisms, and deletion of the short arm of
chromosome 18: a distinct entity? Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry, 67(6):830-1.
★ Hagerman, R. J., J. Hills, S. Scharfenaker, & H. Lewis. (1999). Fragile X syndrome and selective mutism. American Journal of Medical Genetics, 83(4):313-317.
★ Rosen, J. B., & Schulkin, J. (1998). From normal fear to pathological anxiety. Psychological Review, 105(2); 325-350.
★ Selective Mutism Group-Childhood Anxiety
Network. Why does a child develop Selective Mutism? (Retrieved June 3, 2006 from http://www.selectivemutism.org/FAQ.htm
#Why%20does%20a%20child%20develop%20Selective%20Mutism)
★ Simons, A., Goode, S., & Fombonne, E. (1997). Elective mutism and chromosome 18 abnormality. European child & adolescent psychiatry, 6(2):112-114.
★ 染色体. (May 24, 2006). Wikipedia, . Retrieved June 3, 2006 from http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=
%E6%9F%93%E8%89%B2%E4%BD%93&oldid=5865378
★ ダウン症候群. (May 20, 2006). Wikipedia, . Retrieved June 3, 2006 from http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=
%E3%83%80%E3%82%A6%E3%83%B3%E7%97%87%E5%80%
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- [2006/06/03 18:12]
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