大人の緘黙症、国内の研究を見る(3)

2014年07月01日(火曜日)

アイキャッチ画像。写真素材サイト「PAKUTASO」より。
大人の場面緘黙症について考えるため、まずは地道に先行研究を眺めることから始めようということで、4月にそうした記事を書き始めました。それが、5月の場面緘黙症啓発月間などでしばらく中断していました。ここで再開したいと思います。

ここで言う大人の緘黙症は20歳以上の人の緘黙症のこととしますが、18歳、19歳の緘黙症についても参考として扱います。専門的には、大人という表現よりは青年期といった表現の方が好まれるのでしょうが、ここでは気にしないことにします。

過去の記事は、以下の通りです。

○ 大人の緘黙症、国内の研究を見る(1)
○ 大人の緘黙症、国内の研究を見る(2)

それでは、本題に入ります。

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◇ 丹治光浩(2002)「入院治療を行った選択性緘黙児の長期予後について」『花園大学社会福祉学部研究紀要』10、1-9。


入院治療を行った緘黙児8例の中に、初診年齢16歳、外来期間18ヶ月、入院期間1ヶ月、追跡期間15ヶ月で、その後も緘黙が継続している事例があります。詳細は分からないのですが、「発達の遅れ」があったにも関わらず、相談機関を訪れたのは後のことだったそうです。著者は、「早期治療についてさらなる啓蒙が望まれるところである」と述べていますが、早期介入が行われていれば、ここまでこじれなかった可能性もありそうです。

退院後は再び緘黙に戻り、現在(追跡調査が行われた後)も対人関係は家族に限定されているものの、父親が自営する仕事を真面目に手伝っていて、特に適応上の問題は示されなかったそうです。緘黙児・者は「話す必要のない社会環境(仕事)があれば、十分適応していくことが考えられる」とあります。

以前お話した大井ら(1982)の研究にも、青年期の緘黙者の社会適応について「庇護された形であれば仕事に従事することが出来るという意味で良好」とあり、これとほぼ同じ見解です。もっとも、こうした環境に恵まれる緘黙者がどれほどいるかは分からないのですが……。この例の場合、父親の自営業の手伝いをしている点に私は注目しています。もし家業の手伝いではなく、一般就労を行おうとすれば、それはどこまで可能でしょうか。話せない緘黙者が、採用面接を通ることができるのでしょうか。

◇ 大村豊(2006)「選択緘黙-成人期への影響- 」『精神科治療学』21(3)、249-256。


緘黙の成人期への影響を正面から取り上げた、貴重な研究です。予後の指標でもある大井ら(1979)の緘黙分類を引きながら、(1)選択緘黙は成人期までに治癒するが他の精神障害を呈する例、(2)青年期以降初めて精神医療の問題として顕在化する例、(3)青年期以降まで遷延して他の精神障害を続発する例について、それぞれ症例が示され、診断、治療、予後などについて検討されています。このうち、(2)と(3)に、大人の緘黙症例があります。

(2)については、まず、初診年齢17歳で、1年間治療を行った一卵性双生児の女性の事例が示されています。大井らの緘黙分類では予後が良好な Type I に相当するとみられる事例ですが、その Type I にしては珍しく緘黙が青年期にまで遷延しています。予後良好とみられるタイプの緘黙でも、症状が長期化することは全くあり得ない話ではないようです。ですが、この事例は難治なものではありませんでした。

また、(2)については、もう一つ、障害者職業センターで自閉症を疑われ、診断のために22歳で受診したところ、自閉症ではなく緘黙だったという事例も示されています。大井らの緘黙分類では、予後不良な Type III に相当するとみられる事例です。著者によると、青年期以降で話せない場合、米国精神医学会の診断基準でいう選択性緘黙よりも、自閉症圏や統合失調症圏、感情障害圏をまず考えるのが自然だそうですが、今回のように「成人の選択緘黙ということもある」と著者は述べています。過去の研究では、青年期の緘黙と見られたものが、今日でいう自閉症スペクトラムではないかという指摘が出たものもありますが、大人の緘黙症の鑑別、見分けについて考えさせられます。

この緘黙青年は社会適応で問題を抱えてきたようです。2年間専門学校に通った後、飲食店でアルバイトをしたものの短期で解雇されています。また、ハローワークで紹介されいくつか就職試験を受けたものの、面接で全く話せないため採用されませんでした。その後についても、著者は「成人期に達し就労問題に直面しているが、現在も続いている緘黙のため一般就労が難しい」と述べており、社会適応に困難を抱え続けています。

緘黙児・者は「話す必要のない社会環境(仕事)があれば、十分適応していくことが考えられる」と丹治氏の論文にはありましたが、そうした環境に恵まれる緘黙者がそういるとは思えません。今回のような例の方が一般的ではないかと思います。この緘黙青年が障害者職業センターを訪れたのは、こうした経緯があってのことでしょう。 緘黙は日常的に様々な場面で問題となりますが、大人の緘黙症となると、このように就労の際に改めて大きな問題となりそうです。

最後に、著者はこの緘黙青年について「今後社会との接触が増えると新たな精神行動上の問題が現れてくるおそれがあり、フォローアップが必要だろう」と指摘して、次の(3)「青年期以降まで遷延して他の精神障害を続発する例」を示しています。大人の緘黙症には、続発症にも留意が必要という指摘は、他では見た覚えがなく、注目したいです。

いくつかの事例が示されていますが、いずれも小児期の緘黙が長期化したもので、大人になって初めて緘黙になった例はありません。

私が見つけることができた、大人の緘黙症についての国内研究は以上です。次回は、私なりのまとめを行い、これまでの研究からどういったことが分かるのか、今後の展望は等々について考えたいと思います。(続く)
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※ 大井らの緘黙分類
Type I:社会化欲求型
家族以外にコミュニケーションを自ら求めるもの。家庭ではおしゃべり。予後は良好。

Type II:社会化意欲薄弱型
家族以外にコミュニケーションを自ら求める意欲に乏しいが、受動的には求めるもの。家庭でも無口。予後はあまりよくない。今日で言う自閉症スペクトラムを含むという指摘が近年出ている。

Type III:社会化拒否型
家族以外にコミュニケーションを拒絶するかの如く求めないもの。家庭内でも選択的に沈黙。予後は暗い。
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◇ 地域障害者職業センターに来所した緘黙者 (新しいウィンドウで開く

文献


◇ 丹治光浩(2002)「入院治療を行った選択性緘黙児の長期予後について」『花園大学社会福祉学部研究紀要』10、1-9。

◇ 大井正己、藤田隆、田中通、小林泉 (1982)「青年期の選択緘黙についての臨床的および精神病理学的研究 -社会化への意欲に乏しい5症例-」『精神神経学雑誌』84(2)、114-138。

◇ 大村豊(2006)「選択緘黙-成人期への影響- 」『精神科治療学』21(3)、249-256。

◇ 大井正己、鈴木国夫、玉木英雄、森正彦、吉田耕治、山本秀人、味岡三幸、川口まさ子 (1979) 「児童期の選択緘黙についての一考察」『精神神経学雑誌』81(6)、365-389。

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