『親子でできる引っ込み思案な子どもの支援』は、緘黙も扱う

2014年08月10日(日曜日)

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今回は、『親子でできる引っ込み思案な子どもの支援』という、8月に出たばかりの翻訳書を読んだ感想を書きたいと思います。緘黙についても本書の守備範囲で、実際、「場面緘黙」の用語が何度も登場します。

本の概要


本書は厳密には、「引っ込み思案な子どもの支援」というより、「極度の引っ込み思案な子どもの支援」と言った方が正しいです。引っ込み思案それ自体は問題ではないが過度だと問題というのが本書の見方で、私も全くその通りだと思います。もっとも、あまりにも引っ込み思案が重篤な場合は本書の対象ではありません。ただし、発達障害など本書がカバーしていない範囲もあります。

本書が対象とする子どもの年齢についてですが、「本書は4~5歳かそれ以降に内気な様子を示した子には有効」(16ページ)という記述があります。また、具体的な子どもの例として17歳の高校生が挙げられたり、「10代の子ども」(119ページ)「児童や青年が抱く心配事」(141ページ)といった表現があったりすることから、米国の多くの州において未成年である17歳あたりまでが念頭に置かれているのではないかと思います。

本書の中心を占めるのは、過度に内気な子の支援法を示した部分です。具体的な支援法がこと細かく記されている上、ワークシートまで用意されている配慮の行き届きようです。実践書であり、本を読むだけでなく、本に書かれてあることを粘り強く実践しなければ意味をなしません。ABA(応用行動分析)やCBT(認知行動療法)の分野の本でしょうか。保護者、教師向けの内容です。

本の基本情報


著者は、クリストファー・A・カーニー(Christopher A. Kearney, Ph.D.)氏という、ネバダ大学ラスベガス校の心理学教授です。研究分野の一つに緘黙があり、2010年に出た Helping Children With Selective Mutism and Their Parents: A Guide for School-Based Professionals という本の著者でもあります(なお、この本の翻訳が2015年に学苑社から刊行予定です)。

監訳者は立教大学現代心理学部教授の大石幸二氏で、ほか5名が分担で翻訳しています。出版社は『どうして声が出ないの?マンガでわかる場面緘黙』など緘黙の本を多数出版している学苑社です。なお、この本の挿画を『どうして声が出ないの?』などでお馴染みの、はやしみこ氏が担当しています。はやし氏は今回は装画のみで、本文中のイラストはありません。

本書の原書は、Silence Is Not Golden: Strategies for Helping the Shy Child という、2010年にオックスフォード大学出版局から出た本です。オックスフォード大学というと英国を代表する名門大学ですが、翻訳書を読む限り、米国読者を意識した本のようです。

感想


行動療法に関する記述が多く、特に第4章「地域社会や学校で自分でできる練習」は、『場面緘黙児への支援』や『どうして声が出ないの?』を読んだことがある方には、馴染みやすいかもしれません。ですが、SST(ソーシャルスキルトレーニング)やリラクセーションなど、緘黙の本ではあまり見られない記述もかなりあります。

『場面緘黙児への支援』の場合、いい本だけれども、保護者の負担が重いとか、もともとはカナダの本で日本の教育環境には合わない、という問題点もありました。その『場面緘黙児への支援』と重なる部分もある本書の場合どうでしょうか。保護者でもなければ学校関係者でもない私には、このあたりのところもう少し分かりません。

元当事者の立場として本書を読むと、本書は当事者を対象にしたものではないものの、家庭以外で話せるようにするためにはどうすればよいか、極度の引っ込み思案を克服するにはどうすればよいかを考える上で参考になりそうだと感じました。もっとも、本書を参考に自力で克服するよりも、家庭や学校の協力を得られれば一番よいのですけれども。

本書が扱うのは緘黙を含む極度の引っ込み思案で、その守備範囲は緘黙のみを扱った本よりも広いと言えます。緘黙というと、自己診断がどうという話がネット上でたまにありますが、本書の場合は緘黙の診断の有無は関係なく、引っ込み思案がひどい子を扱っています。対象年齢も17歳ぐらいまでらしく、幅広いです。例えば、中高生ぐらいになって学校で少し話せるようになったがまだコミュニケーションが十分できない、という人にも合うだろうと思います。ただし、学校で話せないと思ったら発達障害が背景にあったという場合、発達障害は本書の対象ではないので、もしかしたら事情が違ってくるかもしれません。

極度引っ込み思案の克服は大変


緘黙にしてもそうですが、極度の引っ込み思案を克服するまでの道のりは大変だと、本書を読んで改めて感じました。それは当事者、保護者、教員、いずれにとってもです。練習あるのみなのでしょう。海外の緘黙支援では、遊びの要素を行動療法に取り入れる場合が少なくないようなのですが、その理由が分かるような気がします。

親子でできる引っ込み思案な子どもの支援「保護者も子どもも、本書で説明されるスキルや方法が生涯に渡って実践されなければいけないことを認識する必要がある」(20ページ)という、気が遠くなりそうなことも本書には書かれてあります。極度の引っ込み思案の克服は長い道のりなのでしょう。ですが、これについては、そこまで引っ込み思案がひどくない人であっても、コミュニケーション上のスキルを高めようという意識は多かれ少なかれ子どもでも大人でも持ち続けているもので、特別なことではないというように私は解釈しています。