学校内で「学校」を意識しない場所

2014年11月05日(水曜日)

アイキャッチ画像。写真素材サイト PAKUTASO より。

教師向けの本に、緘黙児の指導事例が


豊田ひさき(1994)『学習集団の授業づくり』日本書籍。

こういう本を古本で購入しました。小学校の教諭が、場面緘黙症の5年生を指導した例が10ページにわたって紹介されています。

この本はあまり知られていないようで、インターネットで検索してもほとんど何もヒットしません。また、私の地元の主要図書館(大学図書館含む)の蔵書情報を調べてみても、どこにも見つかりません。ですが、面白いことも書かれてありますし、せっかく貴重な本を見つけたので、ここで取り上げてみることにします。

全員参加の授業づくり


この本の緘黙に関する記述で興味深いのは、全員参加の授業づくり、つまり緘黙児も参加できる授業づくりという教育者の切り口から、緘黙児への指導事例が紹介されていることです。具体的には、緘黙児だけを取りだして働きかけるのではなく、あくまでも学級の一員に位置づけながら、緘黙児の個性に応じて、個別的に緘黙児にも働きかけていく「集団を基礎にした個別的接近の原理」と筆者が呼ぶ指導原理が事例を通じて示されています。

以前にも、教育関係の本を読んで感じたのですが、私たちは教師に、緘黙児にはこれこれこういう対応をしてほしいなどと緘黙児への個別対応についての関心が向きやすいのですが、それに対して教師などの教育者は、授業づくりなど学級全体を広く意識しながら緘黙児への対応を考えることもあるのかなとも思います。このように授業や学級運営全体を意識した上での緘黙児への対応について論じられることは案外少なく、本書で書かれてあることは貴重かもしれません。

給食室で調理員に発話


後半では、家庭で録音したテープの声を学校でみんなに聞いてもらったり、「学校」を意識しないところから発話をさせてみたりといった、現在でもよく行なわれている方法が紹介されています。

ただ、学校内で「学校」を意識しない場所として給食室を思いついたという発想は類書では見たことがなく、興味深いです。給食室の調理員が気さくな方だったということもあり、担任教師が緘黙児に給食室への用事を何度も頼み、次第に発話ができるようになりました。給食室への用事を頼むに先立って、この教師が敢えて「給食のおばちゃんには何も言わなくてもいいのよ」と緘黙児に話して安心させている点も重要です(その上で、緘黙児は教師の狙い通り、発話をしています)。

著者の豊田ひさき氏は、当時、大阪市立大学教授。現在は中部大学特任教授。教育学博士。

なお、この本は、緘黙、斜視、対人恐怖などを扱った「ほほえむ」というサイト(2000年開設、2007年頃閉鎖)で紹介されていました。最近はこのサイトをご存じない方も増えてきたかもしれませんが、長く続いた緘黙サイトです。

[関連リンク]

◇ ほほえむ (新しいウィンドウで開く
↑ 何年も前に閉鎖されたサイトで、現在アクセスできません。