緘黙児が主人公の30年前の童話『さよならの湖』

2014年11月21日(金曜日)

アイキャッチ画像。写真素材サイト pro.foto より。
緘黙児が主人公の、隠れた名作童話を見つけました。なんと30年も前の本です。埋もれさせておくにはもったいないと思うので、ご紹介します。

さかいともみ作、青空風太郎絵の『さよならの湖-白鳥の詩(うた)-』という本です。Amazon.co.jp では、1984年1月に教育出版センターから出版されたものと、同年9月に銀の鈴社から出版されたもの(こちらは「酒井友身」名義)の両方が掲載されていて、その違いがわからないのですが、私が読んだものは前者です。

本書では「緘黙症」という言葉が、ふりがな付きで何度も出てきます。緘黙の解説もなされていて、自閉症との区別も明確になされています。そして、主人公の少女が緘黙という設定が、物語の大きな柱になっています。

緘黙の解説や緘黙が絡む話の展開には、私としては多少不満もないではないのですが、そこを差し引いても良作だと思います。命の重み、自然を愛することについて考えさせられる感動作です。また、作者が新潟県妙高高原の生まれとあって、新潟県の水原(すいばら)を舞台にした本書では豪雪地帯の環境がしっかりと描かれています。

それにしても、1984年、元号だと昭和59年というこの時代に、緘黙児が主人公の本格的な童話が、それも「緘黙症」の言葉をはっきり出した童話が出版されていたとは思いもよりませんでした。もっとも、私は緘黙児が登場する童話は比較的最近のものしか調べていないので、もしかするとこうした童話は探せばもう少し見つかるかもしれません。本書では、参考文献に『医学大辞典』(南山堂、出版年月日不明)、山中康裕『少年期の心』(中公新書、1978年)などが挙げられていますが、70年代には既に専門家が著した本や教育雑誌の中で緘黙が扱われることはありました。そのことを思い起こすと、この先、緘黙児が主人公の70年代の童話が見つかるようなことがあっても、それほど不思議ではないような気がします。

30年前というと、現在、緘黙の子をお持ちの親御さんの中には、ちょうどその頃子どもだったという方も少なくないだろうと思います。読んだことがあるという方、いらっしゃるでしょうか。

Amazon.co.jp の書籍コーナーを見ても分かる通り、本書はノンフィクションとして扱われています。ただ、「あとがき」を読むと、完全なノンフィクションではなく、事実を元にした創作であることが窺われます。小学校中~高学年あたりの子どもに向いている本ではないかと思います。

現在、入手は難しそうな本ですが、一部の図書館には置いてあります。児童書コーナーの書庫あたりにありそうです。ですが、書庫の本はカウンターの方にお願いしないと出してもらえず、緘黙の子にとっては敷居が高そうで、そこが気がかりではあります。

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↓ 本書の舞台。作中では実在の人物として「吉川さん」という、故吉川重三郎氏の息子さんが登場します。新潟県公式観光情報サイト「にいがた観光ナビ」へのリンクです。
◇ 瓢湖【白鳥の飛来地】 (新しいウィンドウで開く