米・緘黙支援団体理事長の本が出る

2014年11月27日(木曜日)

アイキャッチ画像。写真素材サイト PAKUTASO より。モデルの女性は Lala* さん。
米国で、緘黙児支援の新しい本が出ました。読んだ感想のようなものを書きます。

本の概要


今回取り上げる本は、Aimee Kotrba 著 Selective Mutism: An Assessment and Intervention Guide for Therapists, Educators and Parents です。本の題名を訳すとすれば、『場面緘黙症:治療専門家、教育者、親のためのアセスメントと介入の手引き』といったところでしょうか。2014年11月に PESI Publishing & Media という出版社から出たばかりの本です。ペーパーバック版と電子書籍版が発売されています。なお、私が読んだものは電子書籍版(Kindle)です。

内容は、行動療法により緘黙児を支援するための方法をまとめたマニュアルです。かなり大雑把に言うと、易しいところから徐々に発話を促す支援法を軸にした内容です。『場面緘黙児への支援』という緑色の本がありますが、あれと似た本と思えばよいです。

著者の Aimee Kotrba 氏は、緘黙や不安障害を専門とした認定臨床心理学者です。ミシガン州のブライトンで緘黙などを対象とした診療所を運営しているほか、米国最大の緘黙支援団体 Slective Mutism Group の President of Board of Directors(理事長?会長?)の職にあります。2013年には、同氏が講師を務めた緘黙ワークショップの模様を収めた DVD が発売されましたが、著書の出版は今回が初めてです。

似た本がいっぱい!


保護者、教師、専門家らが協力して、段階的に発話を促す……英語圏ではこうした本が多く出版されていて、今回の本もその例外ではありません。既に類書が多数出ているわけです。

※ 主な類書リスト

○ The Selective Mutism Resource Manual(2001年)
⇒ 英国の本。英国では緘黙児支援のバイブルとされます。専門家向け。値段が高い。2015年に第二版が出るという情報あり

○ Helping Your Child With Selective Mutism(2005年)
⇒ カナダの本。保護者向け。この中では最も手ごろな値段。日本では『場面緘黙児への支援』として邦訳書が出ました。

○ Helping Children With Selective Mutism and Their Parents(2010年)
⇒ 英国の名門・オックスフォード大学出版局から出ていますが、米国の本です。学校に関わる専門家向け。

○ The Selective Mutism Treatment Guide(2012年)
⇒ イスラエルの専門家による本。三章立てで、親向けマニュアル、教師向けマニュアル、専門家向けマニュアルの構成。ここで挙げた本の中では最も易しく書かれてあります。

○ Treatment for Children With Selective Mutism (2012年)
⇒ これもオックスフォード大学出版局から出た米国の本。治療専門家向け。緘黙の標準的な治療手順が開発されたのですが、それを示した本です。ランダム化比較試験でこの本の支援法の効果が検証されています。

どうしてこう同じような本が次から次へと出るのか、素朴に不思議に思います。いずれにせよ、こうなると、今回の本と既存の本との違いに注目したくなります。似ているだけに、何らかの差別化が図られているはずです。

類書との違い


まず、今回の本の特徴の一つとして、本の副題にもあるように、治療専門家、教育者、保護者の三者を対象読者とした点が挙げられます。この三者はチームを組んで緘黙児の支援に当たることとされているため、三者とも対象読者に据えることには納得がいきます。

米国向けであることも一つの特徴です。例えば、504プランIEP(個別支援計画)という米国の制度についての解説がなされていて、IEP は緘黙児支援には「概ね必須」(generally necessary)として重要視されています。

また、緘黙に関する近年の研究や支援の成果がよく反映されていることも特徴として挙げられます。2010年代の論文はもちろん、新診断基準 DSM-5、米国で広がる緘黙児の集中治療(本書の著者も関わりあり)などの新しい動きが引用されているほか、緘黙児支援の新たな道具「アプリ」が色々と紹介されています。

気になったのは、ここ数年、緘黙児支援で新たに注目を集める米国の民間機関 Child Mind Institute (CMI) のワークショップで紹介される支援法と、本書の支援法とで重なる部分がやや目立つことです。例えば、行動療法に基づいて行なわれる緘黙児の発話を CMI では Brave Talking と呼ぶのですが(Brave は「勇気ある」「勇敢な」の意味)、この言葉が本書でも使われています。本書の著者が CMI から影響を受けたのか、それともその逆か、そのあたりはよく分かりませんが、これも近年の米国における緘黙児支援の動向が反映されていると言えるかもしれません。

行動療法の具体的な方法としては、学校環境で緘黙児支援に関わる「キーワーカー」という役割を導入したことがちょっとした特徴かもしれません。緘黙児支援で中心的な役割を果たす人物を治療専門家でもなく教師でもなく「キーワーカー」という役割に設定することにより、支援者を柔軟に選べる利点がありそうです。もっとも、キーワーカーは本書が初出ではなく、英国の The Selective Mutism Resource Manual(2001年)で既に述べられてはいました。

日本の読者にも、少なくとも参考にはなりそう


著者が示す方法はとにかく具体的で詳しく書かれてあります。著者の豊富な臨床経験が窺われます。巻末にはワークシートや資料なども用意されている配慮の良さです。類書にはないノウハウもあり、特に米国で緘黙児支援に関心のある方にとっては、類書の中でも特に魅力的な一冊でないかと思います。

Selective Mutism: An Assessment and Intervention Guide for Therapists, Educators & Parents日本の読者にとっては、米国向けに書かれてある本書の支援法をどこまで日本で実践できるかが関心事となりそうですが、このあたりのところは私には分かりません。ただ、少なくとも、支援の参考にはなりそうです。英文はさほど難しくなく、分量も多くはないので、英語を第二言語として学ぶ人にとっても比較的読みやすそうです。もっとも、わが国にも本書とよく似た『場面緘黙児への支援』という本が既にあるので、無理して読む必要もあまりないかもしれません。