大人の緘黙症、国内の研究を見る(6・終)

2014年12月27日(土曜日)

アイキャッチ画像。写真素材サイトPAKUTASOより。
大人の緘黙症、国内の研究を見る(5)」の続きです。前回に引き続き、大人の緘黙症に関する国内研究を、私なりになんとか総括しようとしています。

予後の指標、大井ら(1979)の緘黙分類


大人の緘黙症に関する研究といえば、大井ら(1979)による緘黙の分類が引用されたことがあります(大井ら、1982;丹治、2002)。

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※ 大井らの緘黙分類
Type I:社会化欲求型
家族以外にコミュニケーションを自ら求めるもの。家庭ではおしゃべり。予後は良好。

Type II:社会化意欲薄弱型
家族以外にコミュニケーションを自ら求める意欲に乏しいが、受動的には求めるもの。家庭でも無口。予後はあまりよくない。

Type III:社会化拒否型
家族以外にコミュニケーションを拒絶するかの如く求めないもの。家庭内でも選択的に沈黙。予後は暗い。
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大井らの緘黙分類は予後を測る指標でもあります。 特に、予後が悪い Type III や Type II は、大人の緘黙症を考える上で注目したいです。実際、大井らは青年期の緘黙5症例を取り上げたのですが、これは上記分類の TypeII に該当するものです(大井ら、1982) 。

荒木(1979)の緘黙分類


これと似たものに、荒木冨士夫氏による緘黙の三分類があります(荒木、1979)。大井氏ら自身、後に「われわれのものとほとんど一致しているように思われる」と述べています(大井ら、1982)。

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第I群:積極的依存型
甘えと攻撃性をともに十分に発揮。治療導入は容易。さらに Ia と Ib の細分類がある。

第II群:消極的依存型
甘えや攻撃性はあっても少なく、消極的。さらに IIa と IIb の再分類がある。

第III群:分類気質型
甘えが全くなく、攻撃性は破壊的攻撃というかたちであらわれる。治療導入は困難で、予後はよくない。全緘黙(的)。
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大井らの分類とほぼ同じものであることから、荒木の分類も予後の指標とも考えられます。荒木の研究では、初診年齢24歳男性の事例があるのですが、これは予後の悪い第II群に分類されるものです(荒木、1979)。

ただ、大井ら(1979)の分類も荒木(1979)の分類も、多様な緘黙児の状態像を記述しきれていない可能性が、近年指摘されています(臼井ら、2013)。

自閉症スペクトラムとの鑑別


大井らの分類で言う Type II と、荒木の分類で言う第II群は、自閉症概念が拡大した今日では自閉症スペクトラムを含むのではないかという指摘が出ています(大村、2006;渡部ら、2009)。

青年期以降で話せない場合、米国精神医学会の診断基準でいう選択性緘黙よりも、自閉症圏や統合失調症圏、感情障害圏をまず考えるのが自然だそうです(大村、2006)。緘黙と自閉症スペクトラムの鑑別は重要ですが、大人の緘黙症については特に注意したいです。

今後の展望


何より、大人の緘黙症に関する研究の数が少ないです。今の段階では、大人の緘黙症について分かることは少ないです。なんとかならないものだろうかと思います。

英語圏においても緘黙に関する既存の研究には小学校入学前や小学校の緘黙児に関するものがほとんどなのですが、その不足を補うことを一つの狙いとして発表されたのが、今年出た英国の本 Tackling Selective Mutism: A Guide for Professionals and Parents 収録の研究です(Roe, 2014)。緘黙支援団体 SMIRA の会員と協力して10-18歳の緘黙者の調査を行なっています。

また、83名もの成人が参加し、そのうち79名がいまなお緘黙という大人の緘黙症の研究があるのですが、これは複数の緘黙支援団体のウェブサイトなどを通じて当事者の募集を行なって実現したものです(Sutton, 2014)。

このように、支援団体の協力を得る方法もあります。複数の団体の協力を得てもよいです。

それから、大井ら(1979)、荒木ら(1979)の緘黙分類は予後の指標でもあり、関連する研究で報告されている大人の緘黙症は予後不良なタイプが多いのですが、この分類の妥当性には近年再検討が行なわれており、今後の議論の行方によっては大人の緘黙症の理解に影響が出るかもしれません。

結び


私の力量不足で、「大人の緘黙症に関する研究の数が少ない」ぐらいしか展望を書くことができませんでした。もっとちゃんとした方が、ちゃんとした場で、展望を発表する日が来ることを期待して、結びとします (あなた任せのひどいオチで、すみません……。「ともかくもあなた任せの年の暮れ」小林一茶の句ですが、意味が違います) 。

なにはともあれ、よいお年をお迎えください。

文献


◇ 荒木冨士夫(1979)「小児期に発症する緘黙症の分類」『児童精神医学とその近接領域』20(2)、1-20。
◇ 臼井なずな、高木潤野(2013)「緘黙の類型化に関する研究-従来指摘されてきた2つの分類からの検討-」『長野大学紀要』34(3)、1-9。
◇ 大井正己、鈴木国夫、玉木英雄、森正彦、吉田耕治、山本秀人、味岡三幸、川口まさ子 (1979) 「児童期の選択緘黙についての一考察」『精神神経学雑誌』81(6)、365-389。
◇ 大井正己、藤田隆、田中通、小林泉 (1982)「青年期の選択緘黙についての臨床的および精神病理学的研究 -社会化への意欲に乏しい5症例-」『精神神経学雑誌』84(2)、114-138。
◇ 大村豊(2006)「選択緘黙-成人期への影響- 」『精神科治療学』21(3)、249-256。
◇ 丹治光浩(2002)「入院治療を行った選択性緘黙児の長期予後について」『花園大学社会福祉学部研究紀要』10、1-9。
◇ 渡部泰弘、榊田理恵 (2009)「自閉症スペクトラムの観点から検討した選択性緘黙の4例」『児童青年精神医学とその近接領域』50、491-503。
◇ Roe, V. (2014). Silent voices: listening to some young people with selective mutism and their parents. In Smith, R.B. and Sluckin, A. (Ed.), Tackling Selective Mutism: A Guide for Professionals and Parents. [Kindle version]. Retrieved from Amazon.com
◇ Sutton, C. (2014). Appendix: Selective mutism in adults. In Smith, R.B. and Sluckin, A. (Ed.), Tackling Selective Mutism: A Guide for Professionals and Parents. [Kindle version]. Retrieved from Amazon.com