親に理解してもらえない緘黙児もいる

2015年01月21日(水曜日)

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無理解な保護者の存在


親が子どもの緘黙に気付いていない。

親が緘黙に無理解で、子どもを追い詰めるようなことを言う。

このところ Twitter で、こうした親の存在が小さな話題になっています。これに対して、一部の緘黙に理解ある保護者からは、驚きの声が上がっています。

保護者に緘黙の理解がないという当事者や経験者の声は、ネット上では昔ほど聞かなくなったと感じていました。保護者の理解が進んでいるのかもしれません。その一方で、私の勘違いかもしれませんが、ここ何年かの間に、無理解な保護者の存在を口にしにくい「空気」のようなものができたとも感じます。緘黙支援に熱心な保護者の存在が目立ち出したためです。私の勘違いならよいのですが。

私がこのブログを始めた10年近く前には、 無理解な保護者に対する当事者や経験者の不満をネット上で見ることがわりとあったような気がします。2008年末には、緘黙支援団体「かんもくの会」の代表が、ブログの中でこう書きました(弥生桜、2008年12月2日)。

自分の親だけでなく、私の知る限り、緘黙症の当事者たちの多くは口をそろえて「親にはなにもしてもらえなかった」と言います。

これはすでに結論を出していることですが、緘黙症は最も近くにいる家族にその深刻さを気づいてもらえない特性をもった障害です。(障害とはあまり言いたくありませんが)

かんもくの会の保護者会員の方々だけと接しているとそんな気がしなくなってくるのですが、現実はほとんどの子どもたちはあまり心配してもらえずに放置されていると思います。

緘黙症の当人はどうしてこの苦痛に気づいてくれないのかと親を恨んだりします。

しかし、その苦痛が周囲から見えないのが緘黙症の特性であって、他の障害と最も異なる性質の一つだと思います。

私もこれに大きくうなずいたものです。「親を恨んだりします」のくだりも、誇張とは思わず、大いに同意したものです。ネット上の緘黙当事者、経験者の声を読む限りそれが実感でしたし、文献上でも「保護者は、学校では想像もつかないほどに活発に話していたり活動的であったりすることから、家庭ではあまり重大に考えられていない場合が多い」などと書かれていました(平田、2002)。

私自身も正式な診断は受けていないものの、学校では何年間にもわたって声が出ず苦しい思いをしたものですが、保護者の理解はやはり得られませんでした。学校、同級生、保護者の中で、最も理解がなかったのは保護者でした。

だいたい、学校での子どもの姿を見る機会が普段ないのに、自分の子が学校で緘黙していることを知っている保護者がいたら、むしろそちらの方が私にとっては不思議に思えました。教師が保護者に緘黙のことをうまく伝えたのでしょうか。保護者が子どもの訴えに素直に耳を傾けたのでしょうか。

そういうわけで、私も大半の緘黙児は保護者の理解が得られないでいる、保護者に追い詰められるようなことを言われる緘黙児も少なくないと長い間考えていました。ネット上でよく目にする緘黙支援に熱心な保護者は、例外的な存在と見てきたのです。

ですが、最近は、若干見方を変えています。本当にそんなに無理解な保護者が多いのか、もう少し慎重であった方がよいかもしれないと考えるようになっています。もう少ししっかりした根拠を集めてから判断したいのです。また、緘黙支援をめぐる状況も昔と今とでは変わっていて、10年前や20年前に緘黙児だった方の経験を、現在の緘黙児にも同じようなものと考えてよいかどうかも分かりません。実態調査などがあればよいのですが。

親の理解の実態は?


Tackling Selective Mutism: A Guide for Professionals and Parents海外には、これに関する調査があります。昨年発売されて話題を読んだ英国の本 Tackling Selective Mutism に付録として掲載された、大人の緘黙者に関する調査です(Sutton, 2014)。

調査にあたって、複数の緘黙支援団体で成人期の緘黙経験者を募り、83名が集まりました(そのうち79名はいまなお緘黙、さらに大半の参加者は英国、米国から)。

これによると、そのうちおよそ25%の緘黙経験者の保護者は、子どもの緘黙に気付かなかったそうです。また、これとは別の25%の保護者は、自分の子どもが他の子どもと違うことに気づいたものの、「場面緘黙症」を知らず、支援を求めることもなかったそうです。

日本ではこういう調査を見たことがありません。もし存在しないなら、どなたか調査していただけるとありがたいです。

ただ、参考にならなるかもしれないものがあります。ウェブサイト「場面緘黙症専用」内のコンテンツ「場面緘黙症の人に30の質問」です。この質問項目の中に、「16 親は緘黙状態だと気づいていた?」「17 親はいつ気づいたの?」「18 緘黙のことで親からなにか言われたりした」があります。この質問は10年以上にわたって変わらずあるもので、回答をウェブ上で公開している人は多いです。インターネットで検索してみるとよいです。

緘黙の認知、理解が進まないのが悪い


私は子どもの緘黙に気付かない親や、無理解な保護者を責めるつもりは必ずしもありません。緘黙の認知や理解が進まないこの現状では、そうした保護者が出てくるのは残念ながら避けられないと考えるからです。誰だって、最初は緘黙を知らないのです。緘黙の啓発は、このためにも必要だと思います。

まとまりがない文章ですが、保護者の理解の実態調査と、緘黙の理解が進むことを期待しつつ、結びとします。

文献


◇ 平田幹夫(2002)「場面緘黙児の発話を促進するカウンセリング過程(I)-小学校3年男児の介入例-」『琉球大学教育学部教育実践総合センター紀要』9、1-12。 http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/123456789/5712/1/No09p001.pdf 最終アクセス2015年1月21日。
……ですが、実は以下の文献からの孫引きです。すみません。
◇ 飯島澄子(1999)「場面緘黙の子」『児童心理』53(8)、846-851。

◇ 弥生桜(2008年12月2日)「保護者会員の方々とお会いして」『ほんとうは暖かい光が好き ~場面緘黙症との闘い』 http://preciousshine.at.webry.info/200812/article_1.html 最終アクセス2015年1月21日。

◇ Sutton, C. (2014). Appendix: Selective mutism in adults. In Smith, R.B. and Sluckin, A. (Ed.), Tackling Selective Mutism: A Guide for Professionals and Parents. [Kindle version]. Retrieved from Amazon.com