『私はかんもくガール』

2015年02月11日(水曜日)

アイキャッチ画像。イラスト素材サイト イラストAC より。
場面緘黙症をテーマにした新しい本『私はかんもくガール-しゃべりたいのにしゃべれない場面緘黙症のなんかおかしな日常-』が出ました。「2015年2月20日 第1刷発行」の本です。ところが、私はこれを Amazon.co.jp で予約注文したところ、2月10日に発送され、本日2月11日に届いてしまいました。どういうことでしょう。

それはさておき、今回は、例によってこの本を読んだ感想を書いてみたいと思います。

本の基本情報


私はかんもくガール: しゃべりたいのにしゃべれない 場面緘黙症のなんかおかしな日常本書は、緘黙を経験した女性がご自身の半生を綴った自伝と言えます。ただ、文章ではなく、コミックエッセイというかたちをとっています。140ページ余りの内容のうち、そのほとんどがコミックです。また、臨床心理士で、緘黙支援団体「かんもくネット」代表の角田圭子さんによる解説が、ところどころでなされています。

作者は、イラストレーターのらせんゆむさん。解説は「かんもくネット」名義です。本の帯には、緘黙経験者で、元ミス・イングランドのカースティ・ヘィズルウッドさんが写っていて、カースティさんのメッセージも載っています。出版社は、発達障害や教育関係の出版実績がある合同出版です。

[追記(2015年2月13日)]

らせんゆむさんによると、この本の広告が、2月14日(土)の『毎日新聞』朝刊一面に掲載されるようです。

※ らせんゆむさんの Twitter 投稿 (新しいウィンドウで開く


※ 今回の記事のアイキャッチ画像(トランペット女子の画像)はイラストですが、これはらせんゆむさんが描かれたものではありません。みゆきひろしさんという方によるものです。

時代背景~緘黙時代は、80年代から90年代前半


らせんゆむさんは1977(昭和52)年の生まれで、本の内容から、緘黙時代を過ごされたのは80年代から90年代前半(昭和50年代後半から平成5、6年頃)あたりまでと思われます。この時代には、既に本などで緘黙について書かれることもないことはなかったのですが、やはり稀なことだったようです。緘黙支援に関するノウハウの共有や蓄積はおそらく今以上になく、緘黙や緘黙児への対応法についても、今以上に知られていなかったのではないかと思います。

ただし、1986年から89年にかけて、岩手大学の故・山本実教授が緘黙を主題とした書籍を立て続けに出していて(ただしメジャーな流通網には乗りませんでした)、この間、故・山本教授がNHKに出演したり『読売新聞』で取り上げられたりしていました。運がよければこれらのメディアを通じて緘黙に気付いて、本の恩恵を受けられた世代なのですが、本書を読む限り、そうしたことはなかったようです。

なお、初めてメジャーな流通網に載った緘黙の専門書『場面緘黙児の心理と指導』が出たとき(1994年)らせんゆむさんは17歳頃、インターネットで緘黙に関するホームページが誕生し始めたとき(2000年頃)23歳頃、「かんもくネット」ができたとき(2007年)には30歳頃でした。いずれも、らせんゆむさんが緘黙を「卒業」した後のことです。

感想


いい意味で軽くて好き


ほぼ全編コミックエッセイということで、緘黙関係の本の中ではユニークです。深刻な内容も含んだ本ですが、絵柄が可愛いため、手に取りやすいです。このいい意味での軽さは好きです。

ところどころで、「ラブシール」「ファミコン」「ドラクエ3」など、時代を感じさせるものが盛り込まれているのも、物語に現実味を感じさせて面白いです。緘黙の子の保護者の中には、同世代で共感できるという方もいらっしゃるかもしれません。

「場面かんもく克服後にやってくる本当の苦しさ」


私がこの本で気に入ったのは、幼稚園や小学校といった緘黙児の頃だけでなく、話せるようになった後のことや、成人後のことまでしっかりページをとって描かれてあることです。

緘黙は、声が出るようになれば一件落着とは必ずしも限りません。「緘黙の後遺症」という言い方もありますが、日常生活を営む上で何らかの問題が残ることも少なくありません。こうした点は見落とされがちですが、本書ではこのあたりのところも描かれています。

また、これに関連して、角田圭子さんが「かんもく症状の改善後の課題」という、類書であまり見かけない興味深い解説を行なっているのですが、これも、「場面かんもく克服後にやってくる本当の苦しさ」まで扱う、らせんゆむさんの描き方が引き出したものでしょう。

本をきっかけに、緘黙理解が広まって欲しい


本書は経験者の自伝なので、徹底的に当事者視点です。緘黙経験者の中には、この本を読んで「共感できる部分も多いが、自分の経験と重ならない部分もある」という方も結構いらっしゃるかもしれませんが、それでいいだろうと思います。緘黙の経験というのはそういうものです。

らせんゆむさんは、緘黙だけでなく他の問題も抱えていたようです。角田圭子さんの解説は、ここのところを冷静に分析していて、分かりやすいです。

本書が緘黙の経験者はもちろん、緘黙を経験していない様々な方の手にもわたって、緘黙の理解が広まることを願います。

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