緘黙の、様々な分類

2015年02月24日(火曜日)

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マギー・ジョンソン氏によるという五分類


1 場面かんもく傾向
2 純粋な場面かんもく
3 言葉に苦手がある場面かんもく
4 複合的場面かんもく(発達的問題や心理的問題の合併)
5 遅発発症の場面かんもく(学校での孤立やいじめによる発症が多い)

らせんゆむ著、かんもくネット解説(2015)『私はかんもくガール - しゃべりたいのにしゃべれない場面緘黙症のなんかおかしな日常 - 』合同出版、55ページより。

この分類は、英国で緘黙支援の第一人者とされる、スピーチセラピストのマギー・ジョンソン(Maggie Johnson)氏によるものだそうです。

この分類、最近ときどき目にします。昨年12月に開かれた緘黙支援団体「かんもくネット」主催の場面緘黙シンポジウムで配布された資料の中でも、この分類が紹介されたそうです。

↓ 「チョコぶろぐ ☆場面緘黙sun日記☆」へのリンクです。
※  場面緘黙シンポジウムに参加しました
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私は英語圏の緘黙の情報を普段から集めているのですが、不勉強ゆえか、このマギー・ジョンソン氏の分類を直接確認したことがありません。引用というかたちで紹介されたものは日本の読み物で何度も見ているのですが、単に「マギー・ジョンソンさんの分類」などとして引用されたものしか見たことがなく、この分類の詳しい出所さえ今のところ分かりません。

※ 誰か、詳しい出所を示して引用して欲しいです……。どこどこの本や雑誌やウェブサイトに書いてあったとか。こういう専門的なもので、出所不詳の情報が出回るのはよくありません。それとも、出版物やウェブ媒体には載っておらず、ワークショップなどで示された分類?

ですから、別にこの分類を疑うわけではないのですが、一体全体どういう分類なのだろう、どうやってこういう分類に至ったのだろう、謎だと思っているところです。

とはいえ、興味深い分類ではあります。緘黙とは診断されないグループも分類に含まれています。日本では緘黙と広汎性発達障害を併せ持つ場合が多いのではないかという声があったので(角田、2009)、それなら、発達的問題も含めたこの分類が日本で引用されるのは分かるような気もします。

英国の緘黙支援マニュアルによる三分類


マギー・ジョンソン氏と言えば、別の方との共著の中で、次の三分類が示されたことがあります。この三分類なら、直接確認しています。

1 「純粋」な場面緘黙症('pure' selective mutism)
2 発話、言語障害がある場面緘黙症(selective mutism with speech and language impairment)
3 「複合的な」場面緘黙症('complex' selective mutism)

Johnson, M. and Wintgens, A. (2001). The Selective Mutism Resource Manual. Milton Keynes: Speechmark Publishing, 195-196ページより。

この分類は、英国では緘黙支援のバイブルとされる治療専門家向けマニュアルの中で示されたものです。このマニュアルによると、緘黙児のタイプによって支援の道筋が違い、その道筋は主に上記の3つに分かれるとのことです。

著者の臨床経験をもとにした、緘黙児支援の観点からの分類と思われます。私などは、これは緘黙児の分類ではなく、緘黙児支援の方法の分類と解釈しています。

この三分類は、冒頭で取り上げた緘黙の五分類とよく似ています。この三分類に「場面かんもく傾向」と「遅発発症の場面かんもく」を加えたら、冒頭の五分類になるようにも思えます。

なお、最近英国で Tackling Selective Mutism という、緘黙を扱った本格的な本が出版されたのですが、この本では上記の三分類の方が引用されています。

米国の三分類


英語圏で見かける緘黙の分類と言えば、米国の研究者らによる次の分類も挙げられます。

1 不安-軽度反抗群(anxious-mildly oppositional group)
社交不安と、軽い行動および統語の問題があるグループ。

2 不安-コミュニケーション遅滞群(anxious-communication delayed group)
社交不安と統語の問題、軽い言語の問題があるグループ。

3 排他的不安群(exclusively anxious group)
社交不安があるグループ。

Cohan, S. L., Chavira, D. A., Shipon-Blum, E., Hitchcock, C., Roesch, S. C., & Stein, M. B. (2008). Refining the classification of children with selective mutism: A latent profile analysis. Journal of Clinical Child and Adolescent Psychology, 37, 770-784. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2925839/ より。

これは、潜在プロフィール分析(潜在プロフィル分析、潜在プロファイル分析)という統計手法を用いて、北米に住む130人の緘黙児の分類を行なったものです。統語というのは、複数の単語を並べて文を構成することです。

「不安-軽度反抗群」という分類項目がありますが、英語圏では、反抗行動と見られる行動をとる緘黙児の存在が報告され、このことが一つの論点となっています(人に反抗して話をしない緘黙児がいるという意味ではありません。緘黙児は声を出そうにも出せないわけで、反抗して話さないわけではありません)。私などは、これは、緘黙児の不安に対する反応を大人が反抗的と誤解したもののような気がするのですが、この点も含めて研究が行なわれてきていて、まだはっきりしたことは分からない状況です。こうした現状なので、私はこの分類を取り上げるのには注意が必要と考えています。

これら比較的最近の英米の分類から、緘黙は言葉、発達、行動など何らかの問題を併せ持っている場合があることが示唆されます。言葉に問題のある緘黙が含まれているのも、英米らしいです。英語圏で緘黙というと、言葉の問題を併せ持つ例があることが、日本よりも大きく取り上げられる傾向があると感じています。

大井氏らの分類


日本では、大井正巳氏らによる分類が長い間引用されてきました。

Type I:社会化欲求型
家族以外にコミュニケーションを自ら求めるもの。家庭ではおしゃべり。予後は良好。

Type II:社会化意欲薄弱型
家族以外にコミュニケーションを自ら求める意欲に乏しいが、受動的には求めるもの。家庭でも無口。予後はあまりよくない。

Type III:社会化拒否型
家族以外にコミュニケーションを拒絶するかの如く求めないもの。家庭内でも選択的に沈黙。予後は暗い。

大井正己、鈴木国夫、玉木英雄、森正彦、吉田耕治、山本秀人、味岡三幸、川口まさ子 (1979) 「児童期の選択緘黙についての一考察」『精神神経学雑誌』81(6)、365-389 より。

これは、1971年から77年にかけて、名古屋大学精神科児童クリニックと情緒障害児短期治療施設「くすのき学園」において大井氏らが集中的に治療に関わっていた24人(男14、女10)をもとに分類したものです。

この分類は、「goo ヘルスケア」で解説がなされているものと同じです。
※ goo ヘルスケア「選択性緘黙症」
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このうち Type II は、自閉症概念が拡大した今日では自閉症スペクトラム症を含むのではないかという指摘が出ています(大村、2006;渡部ら、2009)。また、 長野大学の研究グループからは、多様な緘黙児の状態像を記述しきれていない可能性があるという指摘が出ています(臼井ら、2013)。近年こうした指摘が相次いでいることから、この分類についても、取り上げる際には注意が必要と考えています。

新たな分類の試みも


現在、長野大学のグループが、緘黙の類型化とその類型に応じたアセスメント、支援方法の確立を目指す長期的な研究を行っているそうです(高木、2014)。ということは、また新たな緘黙の分類がなされるのでしょうか。

緘黙の分類は様々


緘黙の代表的な分類は以上です。それぞれ違った分類で、様々な分類があることが分かります。

現在あまり取り上げられない昔の緘黙研究まで調べると、緘黙の分類はまだ見つかります。私が確認したものでは、50年以上前の流王治郎氏の分類(流王、1965)、十亀史郎氏の分類(十亀、1973)、荒木冨士夫氏の分類(荒木、1979)、海外の例では、作家としても有名なトリイ・ヘイデン氏の分類(Hayden, 1980)などがあります。緘黙は多様という認識が古くからあったことが窺われます。それにしても、緘黙分類の歴史は長いんですね。

このように、様々な専門家が、様々な緘黙の分類を主張してきました。最近見かけることが増えたマギー・ジョンソン氏によるという五分類も、主張されている様々な分類のうちの一つと私は見ています。

※ 日本で一番定着している分類は、 案外 「場面緘黙症」「全緘黙症」の二分類のような気がするよ!

文献


分類紹介の中で既に出典を挙げたものは省きました。

◇ 荒木冨士夫(1979) 「小児期に発症する緘黙症の分類」『児童精神医学とその近接領域』20(2)、1-20。
◇ 臼井なずな、高木潤野(2013)「緘黙の類型化に関する研究-従来指摘されてきた2つの分類からの検討-」『長野大学紀要』34(3)、1-9。
◇ 大村豊(2006)「選択緘黙-成人期への影響- 」『精神科治療学』21(3)、249-256。
◇ 角田圭子(2009) 「広汎性発達障害- イギリスと日本の比較 」『かんもくネットフォーラム』(リンク切れ、都合によりリンク不記載) 最終アクセス2015年2月24日。
◇ 十亀史郎 (1973)『自閉症児・緘黙児』黎明書房。
◇ 高木潤野(2014)「緘黙の類型化のための基礎的研究―状況によるコミュニケーション態度の違いのある緘黙児に対する信頼関係の構築を目的とした介入の有効性の検証― 」『長野大学紀要 』36(2)、103-104。
◇ 流王治郎(1965)「心因性無言症児の研究」『臨床心理』4(2)、36-42。
◇ 渡部泰弘、榊田理恵 (2009)「自閉症スペクトラムの観点から検討した選択性緘黙の4例」『児童青年精神医学とその近接領域』50、491-503。
◇ Hayden, T.L. (1980). Classification of elective mutism. Journal of the American Academy of Child Psychiatry, 19, 118-133.