『先生とできる場面緘黙の子どもの支援』読みました

2015年04月24日(金曜日)

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場面緘黙症の新しい本『先生とできる場面緘黙の子どもの支援』が発売されました。私はこの本を読んだので、せっかくですから、気づいたことなどを書いてみたいと思います。ただし、私の独断と偏見が混じっているかもしれません。

本の基本情報


著者は、ネバダ大学ラスベガス校の心理学教授、クリストファー・A・カーニー(Christopher A. Kearney, Ph.D.)氏です。監訳には大石幸二氏(立教大学現代心理学部教授)があたり、翻訳は複数の人が分担して行なっています。出版社は、『場面緘黙Q&A』や『どうして声が出ないの?』など、緘黙に関する本を出版してきたことでもお馴染みの、学苑社です。

今回の翻訳書の原書は、オックスフォード大学出版局から2010年に出た本 Helping Children with Selective Mutism and Their Parents - A Guide for School-Based Professionals - です。オックスフォード大学は英国を代表する大学ですが、この本は米国の読者を対象としたものです。

本書は、2014年に刊行された『親子でできる引っ込み思案な子どもの支援』の姉妹書のような位置づけです。本の題名、装丁がそっくりなうえ、出版社や監訳者、原書の著者も同じです。

「監訳者あとがき」で紹介されているカーニー氏のもう一冊の本は School Refusal Behavior in Youth - A Functional Approach to Assessment and Treatment - のことと思われますが、この本の翻訳の計画はあるのでしょうか?

学校関係者向けの本


本書は、スクールカウンセラーや先生、管理職、スクールソーシャルワーカーなどの学校関係者が、行動療法で緘黙児を支援するための具体的な方法を示したものといったところでしょうか。緘黙そのものの説明よりも、具体的な支援法にページが割かれてあります。

かなり大雑把な言い方ですが、保護者向けの行動療法の本『場面緘黙児への支援』の、学校関係者向け版と言うと分かりやすいかもしれません。あの本同様、詳細に書かれてある実践書です。ですが、『場面緘黙児への支援』とは違いも多いです。

保護者が読んでも得るところはあるだろうと思うのですが、保護者にはどちらかと言えば本書よりも、姉妹書?である『親子でできる引っ込み思案な子どもの支援』の方がよいかもしれません。これは緘黙も扱っている本で、内容が本書と重なるところがある上、保護者向けに書かれてあります。

緘黙に関する本の出版が相次いでいますが、学校関係者を主な読者として想定した本は、少なくとも近年ではありませんでした。ここに、本書が刊行された重要性を感じます。

緘黙児以外も視野


本書の主要な焦点は緘黙児ですが(ただし重度の緘黙児は除く)、緘黙とまではいかなくとも、極端に「話すことを嫌がる子ども」にも本書の技法が適用できるとして、こうした子も本書は視野に入れています。この「話すことを嫌がる子ども」とは、過度に内気で、話すことに困難を示す子のことを言うようです。

「話すことを嫌がる」は本書の中で繰り返し出てくる表現ですが、私には少し語弊があるようにも思えて気になります。この表現を原書で調べてみると、reluctant to speak と書かれていました。reluctant to は「…したがらない、…することに気が進まない」という意味です。なお、同じような意味の "unwillingness to speak" というのも、原書では複数ありました。原書がこういう表現なので、翻訳書もこうなったのでしょう。

こうした言葉の使い方についてはともかく、著者が示した、学校における発話のスペクトラム(連続体)という考え方は勉強になりました。学校で話せるか、緘黙するかの二分法ではなく、両者を連続的に捉えるということです。何をもって緘黙を克服したとするかを考える際などに役立ちそうです。

「場面緘黙質問紙」


41-42ページに示されている「場面緘黙質問紙」についてですが、かんもくネットのホームページにも「SMQ-R (場面緘黙質問票)」が公開されています。ともに、バーグマン氏による Selective Mutism Questionnaire を日本語に訳したものです。

↓ かんもくネットホームページへのリンクです。
※ SMQ-R (場面緘黙質問票)
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反抗的な緘黙児


第5章の反抗行動をとる緘黙児については難しい問題です。緘黙は不安の症状であり、緘黙児は反抗して話さないわけではないというのが大体の共通認識です。一方で、これとは別の問題として、特に海外の研究では、反抗行動と見られる行動をとる緘黙児が中にはいるとされていて、議論になることがあります。

私などは、これは、緘黙児の不安に対する反応を大人が反抗的と誤解したもののような気がするのですが(『場面緘黙児への支援』の説明も、これに近いです。32ページ参照)、この点も含めて研究が行なわれてきていて、まだはっきりしたことは分からない状況のようです。このあたり、どうだろうと思いながら読みました。

むすび


先生とできる場面緘黙の子どもの支援少なくとも近年では初めてとなる学校関係者向けの本が刊行されたことに注目したいです。本書には緘黙児を支援する方法が、著者の臨床経験や学術研究の成果などを踏まえて詳細に書かれてあります。また、本書には00年代後半の専門的な文献も多数引用されており、日本の既存の類書に比べると、比較的新しい研究成果が反映されていると言えます。

読者にとって大きな問題は、この米国の本で紹介されている技法が、どこまで日本で使えるかでしょう。これについては、残念ながら私は学校事情についてはあまり詳しくないので、よく分かりません。学校関係者が手にとってどう評価するか、気になるところです。

関連リンク


↓ 学苑社ホームページへのリンクです。目次などを見ることができます。
◇ 『先生とできる場面緘黙の子どもの支援』
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↓ 今回紹介した本の姉妹書について。場面緘黙症Journal ブログへのリンク。
◇ 『親子でできる引っ込み思案な子どもの支援』は、緘黙も扱う
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