緘黙児の母&臨床家&元教師が、緘黙の本を出す(米)

2016年01月08日(金曜日)

アイキャッチ画像。
○ 場面緘黙症の子どもの母親
○ 認定臨床専門カウンセラーという臨床家
○ 元特別支援教育の教師

この3つのバックグラウンドをお持ちの、ある米国の女性が、緘黙の本を出しました。私はこの本を読みましたので、ここで感想を書いてみたいと思います。

なお、この本は先月「『緘黙が児童期のみというのは、神話』」の中でご紹介した本とは別のものです。

本の基本情報


本の題名は、Suffering in Silence: Breaking Through Selective Mutism。2015年9月28日に、Balboa Press(インディアナ州ブルーミントン)から出版されています。この本の出版は、インターネット上で資金を募るクラウドファンディングのサイト Kickstarter で、32名の支援者から 2,651ドル(30万円超)の支援を得て実現しました。

著者は Donna Mac さんという方ですが、これはペンネームだそうです。2014年に Toddlers & ADHD という本を出版されていて、今回の本が2冊目の著書です。

本の概要


この本の内容ですが、緘黙の定義、原因、診断、支援法、緘黙支援に役立つ制度面の情報など、緘黙について様々な情報を幅広くまとめています。

英語圏の本で緘黙の専門的なものというと、よく、行動療法で緘黙児に介入を行う具体的な方法を示すことを主眼とした本を目にします。日本で知られる翻訳書『場面緘黙児への支援』『先生とできる場面緘黙の子どもの支援』もそうです。今回の本はそういうタイプの本ではありません。ですが、支援法についてもかなり詳しく書かれてある上、行動療法以外の支援法についても幅広く取り上げてあります。

対象読者としては、緘黙の子をお持ちの親、教師、治療専門家を想定しています。

感想


力作


緘黙の本としては、力作というのが第一印象です。著者お一人で300ページ以上にわたる内容を、豊富な取材とご自身の経験をもとにまとめています。私はこの本を電子書籍ではなく紙の本で買ったのですが(電子書籍 Kindle の方がずっと安いことを知らず……)、本の厚さは2.5センチあり、緘黙の本としては分厚く、重いです。

引用元がユニーク


この本は引用元がユニークです。緘黙児の親や、緘黙支援に携わる方へのインタビューがところどころで引用されています。著者のバックグラウンドの現れでしょうか。本や専門的なウェブサイトからの引用はありますが、学術雑誌からの引用は、ウェブ上でオープンアクセスとなっている論文を含めて、少ないです。

最近の動向を反映


新しい本とあって、最近の動向を反映した内容です。それだけ、既存の本にはないことが書かれてあります。

特に、近年米国で注目を集める Steven Kurtz 博士による支援法や考えが詳細に紹介されたり、繰り返し言及されたりしています。中でも、PCIT-SM の解説は詳しいです。これだけ Steven Kurtz 博士の支援法が詳しく書かれたのは、出版物では初めてではないかと思います。様々な支援法が幅広く紹介されてますが、著者が柱としているのはこの Steven Kurtz 博士の方法で、ここが類書とは違う特徴でしょう。

ただ、ちょっと驚いたことがあります。米国には Steven Kurtz 博士が開発した集中支援プログラムが広がっていて、これを受けるとなかなか費用がかかるのですが(これに限らず、民間の支援プログラムを受けるとそれなりに費用がかかるようです)、著者は借金してでもこれを緘黙児に受けさせるべきかもしれないという意味のことを述べているのです。

しかしながら、緘黙児への治療のために借金をすることも、必要なことかもしれません。いくらかの借金と私の双子の緘黙児の幸せの損得を比較検討したとき、明らかに、答えは双子の幸せです。

However, going into debt for your child's SM treatment may be necessary. When weighing pros and cons of some debt verses my twins' well-being, well clearly, the answer is my twins' well-being.(84ページ)

日本人と米国人の金銭感覚の違いというのはあるのでしょうが、他の記述でも、著者はこの集中プログラムを読者に強くすすめています(特に、83~86ページあたり)。

それだけ、この集中支援プログラムが米国で高く評価されているということなのか、単に著者がこの集中支援プログラムの個人的な信奉者というだけなのか、そのあたりは私にはまだ判断できません。もし後者なら、少し割り引いて読んでもよいかもしれません。

ちなみに、著者自身、この集中支援プログラムに強く影響を受けた Adventure Camp という集中支援プログラムをご自身のお子さんに受けさせた経験がおありです。

なお、私自身は子どもの緘黙のために多額の出費を……とまでは、なかなか言えません。親の気持ちにつけこんで……ともなりかねませんから。私などに言われるまでもないと思いますが、お金の使い方は慎重に考えていただきたいです。日本では、緘黙の支援や治療のために、親が多額の出費をするケースがどの程度あるのかは知りませんけれども。

今回の本ではまた、近年米国で話題のマインドフルネス(瞑想に似たもの)が紹介されています。

その他興味を引かれた箇所


ゴールは、緘黙児を変えることではありません。緘黙児に症状の緩和を経験させることを支援し、緘黙児がより安らかな生活を送ることができるようにすることです。

The goal is not to change them, but rather help them to experience symptom reduction so they can lead more peaceful lives.(xiiiページ)

緘黙は、子どもそのものではありません。子どもが患っているものです。

It is not something she is, but something she suffers with.(57ページ)

緘黙児本人と症状を切り離して考えています。緘黙というと、ときどき、緘黙を個性やアイデンティティのように捉え、どちらかといえば本人とは切り離さないで考える人の意見を目にすることがあります。意見が分かれるかもしれませんが、このあたり、掘り下げて考えると面白いかもしれません。

選択性緘黙は不安障害なので、別の名称があればよいのにと思います。なぜならば、「選択性」と聞くと、私にとって、それは子どもが話すときに意識的に選択していることを意味するからです。

Since SM is an anxiety disorder, I wish it had another title, because when I hear "selective," to me, it means that children are consciously selecting when they speak.(11ページ)

この方も、selective mutism(選択性緘黙)という名称に不満を示しています。同じような意見は国内外にあります。最近では、「『緘黙が児童期のみというのは、神話』」の中でご紹介した2015年12月発売の本 Selective Mutism In Our Own Words の中で、緘黙支援グループ iSpeak を運営する Carl Sutton 氏が Situational Mutism という名称の方を好むと述べています(第1章)。

私としては気に入っている本


全体として緘黙に関わる様々なことが詳しく書かれている本です。話題の Steven Kurtz 博士の支援法が詳しく取り上げられている上、これ一辺倒でもなく、Elisa Shipon-Blum 博士や Aimee Kotrba 博士らの支援法や見解も引用して、うまく総合しています。

そして、私には参加や購入が難しい米国の緘黙のセミナーや DVD からの引用もあります。さらに、緘黙に自殺のリスクがあるかどうかとか、保護者向けの対処スキルなど、重要だけれども、見過ごされがちな話題にも踏み込んでいます。

私としては気に入っている本です。私が作ったゲーム「緘黙RPG」でも、参考文献の一つとして挙げています。

ただ、引用が少しユニークですし、誤字脱字は多めで、なんというか、多少癖のある本かもしれません。

関連リンク


↓ 本の公式サイト
◇ Breaking Through Selective Mutism (新しいウィンドウで開く

↓ 価格の安い電子書籍版への Amazon.co.jp アソシエイトリンク。

↓ ペーパーバック、ハードカバー版への Amazon.co.jp アソシエイトリンク。現在2件のレビュー(英語)あり。