障害者差別解消法と「合理的配慮」

2016年01月21日(木曜日)

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金子書房の雑誌『児童心理』2016年2月号に、金原洋治「場面緘黙がある子」が掲載されました(50~54ページ)。緘黙について概説したものでしたが、新しい話題として、障害者差別解消法や「合理的配慮」について書かれてありました。

そういえば、この法律については、まだ場面緘黙症Journal では取り上げていませんでした。今更という感もありますが、今回記事にしてみます。

障害者差別解消法とは


障害者差別解消法は2016年4月1日から施行される法律で、正式名称を「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」といいます。障害者基本法の基本理念にのっとり、障害を理由とする差別の解消を推進し、共生社会の実現を図ることを目的とした法律です(第一条)。

↓ この法律を分かりやすく解説したリーフレットが公開されています(PDF)。内閣府ホームページへのリンクです。
◇ 障害者差別解消法リーフレット  (新しいウィンドウで開く

↓ 条文や政府の基本方針の解説があります。内閣府ホームページへのリンクです。
◇ 障害を理由とする差別の解消の推進  (新しいウィンドウで開く

この法律が制定された背景には、障害に基づく差別(後述する「合理的配慮」の否定を含む)を禁止した「障害者の権利に関する条約」に日本が署名したことがあります。

合理的配慮とは


この合理的配慮という概念は、条約や今回の法律のキーワードの一つです。条約では次のように定義されています。

↓ 障害者の権利に関する条約が定義する「合理的配慮」(第二条)
障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの

これは、障害者の社会的障壁は社会が作るという「社会モデル」の考え方に基づいたものです。

障害者差別解消法の施行により、国公立学校を含む公的機関には、障害者に合理的配慮(条文では「合理的な配慮」)を行なうことが法的に義務化されます(第七条第二項)。民間事業者は努力義務です(第八条第二項)。

第七条 
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

合理的配慮が行なわれず、障害者の権利利益が侵害される場合、障害者差別解消法が禁止する差別に当たります。

緘黙支援との関係


障害者差別解消法や合理的配慮は、緘黙支援でも話題に


障害者差別解消法や合理的配慮は、緘黙支援でも話題になっています。例えば、金原氏が上述の記事で取り上げています。インターネット上では、つぼみの会 (場面緘黙 親の会 関東)のブログや、緘黙支援団体「かんもくネット」ホームページでも取り上げられています。

↓ つぼみの会のブログへのリンクです。
◇ 合理的配慮  (新しいウィンドウで開く

↓ かんもくネットホームページへのリンクです。 2015年10月の「青年・成人用 リーフレットを作成しました」に、この法律に関する記述があります。
◇ かんもくネット Knet News  (新しいウィンドウで開く

緘黙が障害者差別解消法の対象に入るかどうか、私には分からず、もやもや


ただ、私は、この法律が緘黙者も対象とするかどうか分からず、もやもやしています。

↓ 障害者差別解消法が対象とする「障害者」の定義。緘黙者はここでいう「障害者」に含まれるのでしょうか。なお、この定義は「障害者基本法」のものと同じです。今回の法律は「障害者基本法」の第四条「差別の禁止」を具体化したものなので、もっともです。
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。

以前「障害者基本法」の対象に緘黙が入るかどうかについてコメントをくださった方は、発達障害者支援法など下位(?)の法律との関係から、緘黙は対象に入るということをおっしゃってくださったのですが、どうなのでしょう。

なお、この障害者の定義には、障害児も含むそうです(障害者差別解消法解説編集委員会、2014)。

合理的配慮の流れは、緘黙支援にもきている


緘黙者が障害者差別解消法の対象かどうかはともかく、合理的配慮の流れは緘黙支援にも無関係ではありません。

緘黙者への合理的配慮の事例としては、金原氏の論考で紹介されていた「インクルーシブ教育システム構築支援データベース(インクルDB)」が参考になります。検索しても見つからなかったという方もいらっしゃるかもしれませんが、実は「かん黙」と検索すれば実践事例が2件ヒットします。

◇ インクルーシブ教育システム構築支援データベース(インクルDB)  (新しいウィンドウで開く

障害者差別解消法における合理的配慮で重要な点は、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明」が要件に挙げられていることです(第七条第二項、第八条第二項)。緘黙者に意思の表明はハードルが高そうです。この点に関して、障害者差別解消法に対する政府の基本方針には以下の記述があります。

また、障害者からの意思表明のみでなく、知的障害や精神障害(発達障害を含む。)等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含む。

意思の表明が困難な障害者が、家族、介助者等を伴っていない場合など、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、法の趣旨に鑑みれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望ましい。

http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/honbun.html

参考にしたもの


◇ 障害者差別解消法解説編集委員会(2014)『概説 障害者差別解消法』法律文化社。