場面緘黙症の心理アセスメントと治療の実務指針 

このブログでは、場面緘黙症の論文について紹介しています。私は専門家ではなく、自信もないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回の論文はこれです。

Dow, S.P., Sonies, B.C., Scheib, D., Moss, S.E., and Leonard, H.L. (1995). Practical guidelines for the assessment and treatment of selective mutism. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 34(7), 836-46.

■ 概要

場面緘黙症の心理アセスメントと治療のための実務指針の作成を試みたものです。したがって、臨床家向けと言っていいと思います。実務指針ですので、論文とはいささか違うかもしれません。

■ 考察

◇ 場面緘黙症と不安について

今回の論文は、場面緘黙症は小児期の不安障害であるという、比較的最近欧米で広まっている仮説を踏まえたものです。

欧米の緘黙症研究と日本の研究の大きな違いの一つは、ここにあります。日本では伝統的に親の養育態度が緘黙症の原因として強調されることが多いのですが、不安障害という見方は欧米に比べると広まってはいません。

ただ、日本でも、近年、場面緘黙症と不安障害の関わりについて触れる専門家も増えてきています。『場面緘黙児の心理と指導』の河井芳文氏が研究されていた頃に比べて、日本の専門家の緘黙症に対する理解は変わってきているようです(さすがに、20年ほど経っていますから)。

◇ 心理アセスメントについて

場面緘黙症児の心理アセスメントのための親面接、子どもとの面接、心理検査の実務的な方法について詳しくまとめられています。

ときどき、場面緘黙症Journal掲示板で、私は場面緘黙症なのでしょうか、どうすれば治るのでしょうかというご質問をいただくのですが、こうした掲示板で行うやりとりに比べれば、臨床家は実に緻密にアセスメントを行うことが分かります。場面緘黙症Journal掲示板では別に専門家が掲示板に常駐しているわけではなく、こうしたアセスメントは期待できません(どなたも期待されていないでしょうが…)。ただ、当事者の方に、「どう思われますか?」と軽く質問をしてみる、ということはできます。

◇ 治療法について

今回の論文では、場面緘黙症児に用いられる様々な治療法について検討されています。

続きを読む

場面緘黙症児100人を調査した論文 

場面緘黙症の論文の紹介をしています。私は専門家ではなく、自信もないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回ご紹介する論文はこれです。

Steinhausen, H.C., and Juzi, C. (1996). Elective mutism: an analysis of 100 cases. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 35(5), 606-614.

場面緘黙症児100人を分析し、場面緘黙症の典型的な特徴を明らかにしたものです。この論文も被引用回数が多く、『場面緘黙児への支援』でも複数回引用されています。Steinhausen and Juzi, 1996 というのが、それです。

今回の論文は、これまでにご紹介した論文(Black and Uhde, 1995Dummit et al., 1997)と同時期に行われた同種の研究です。せっかくなので、これらと比較しながら紹介していきます。

■ 研究の特徴

◇ 診断基準

今回の論文では、場面緘黙症の診断基準に、アメリカ精神医学会のDSMではなく、世界保健機関のICD-10が採用されています。Black and Uhde や Dummit et al.,の研究もそうだったのですが、英語圏の緘黙研究の診断基準は、たいていDSMが採用されます。

◇ サンプル100人

今回の研究は調査対象の緘黙症児の数が100人と、緘黙研究としては多いのも特徴です。

前年に発表された Black and Uhde の研究は30人、翌年の Dummit et al の研究は50人でした。他にも、1980年に発表された、著名なトリイ・ヘイデン氏による場面緘黙症の分類に関する研究が大規模なものだったのですが、それでも対象とした場面緘黙症児の数は68人でした(Hayden, 1980)。

◇ スイス、ドイツの研究

また、これまでにご紹介した論文はいずれもアメリカの研究でしたが、今回の論文の著者はスイスの大学に所属していて、サンプルもスイスやドイツで集めたものです。掲載された雑誌は Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry で、America という国名を冠したものですが、実はこの雑誌は、アメリカ以外の国の緘黙関連論文が載ることがときどきあります。

◇ 分析内容

分析内容には、緘黙症児がどういう場面で緘黙するかや、合併する症状など、Black and Uhde やDummit et al らの分析と重なる点も多い一方で、緘黙症児の成育歴や、発症前の言語障害、治療歴など、Black and Uhde やDummit et al などの研究にはないものもあります。

続きを読む

場面緘黙症児50人を調査した論文 

先週から、場面緘黙症の論文の紹介をしています。私は専門家ではなく、自信もないのですが、自分自身の勉強も兼ねて。

今回ご紹介する論文はこれです。

Dummit, E.S. III, Klein, R.G., Tancer, N.K., Asche, B., Martin, J., Fairbanks, J.A. (1997). Systematic assessment of 50 children with selective mutism. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 36(5), 653-660.

この論文も、被引用回数が多いです。『場面緘黙児への支援』でも、何度も引用されています(McHolm, et al., 2005/2007)。最初の方の章に(Dummit et al., 1997)というのをときどき見かけますが、それです。

また、この論文は、先日ご紹介した (Black and Uhde, 1995) とセットで引用されることも、ままあります。なぜならば、研究の内容がお互い似ている上に、近年重要な論点となっている、場面緘黙症と社会不安障害(社会恐怖症)の関係についての主張も、両者は似ているからです。

■ 概要

さて論文の内容ですが、場面緘黙症児50人をシステマティックに評価したものです。ここでいう評価というのは、例えば、他の精神疾患(例。回避性障害、社会不安症、分離不安障害など)の診断基準にも当てはまるかどうか調べたり、様々な心理尺度(例。Children's Global Assessment Scaleなど)で測定してみたり、トラウマや虐待を経験したかどうかを調べたりする、ということです。

評価の結果分かったことは、場面緘黙症児50人全員が、回避性障害か社会不安症の診断基準に当てはまったこと(診断基準はDSMIII-R)、24人が別の不安障害をあわせ持っていたこと、反挑戦性障害に当てはまったのは1人だったこと、等々です(まだまだ、たくさんあります)。

これらの結果から、著者は、「場面緘黙症は、一般に、社会不安障害の一つの行動的な現われである」(SM is typically a behavioral manifestation of a social anxiety disorder)などとする臨床的含意を引き出しています。

続きを読む

場面緘黙症児の特徴を調べた論文 

場面緘黙症については、国内外で数多くの研究論文が発表されてきました。私は専門家ではないのですが、それらの論文について、ここで少しずつ取り上げていきたいと思います。私自身の勉強も兼ねて。

今回取り上げる論文は、これです。

Black, B., and Uhde, T.W. (1995). Psychiatric characteristics of children with selective mutism: A pilot study. Journal of the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry, 34(7), 847-856.

場面緘黙症児の特徴を調べたものです。場面緘黙症の子ども30人について、彼ら・彼女らがどういった場面で話さないかとか、他の精神医学的な障害を持っているかどうかとか、家族に緘黙や社会恐怖症(社会不安)の人がいるかとか、緘黙になる前にトラウマを経験したかとか、そういったことを調べています。なお、親の養育態度(過保護だとか支配的だとか)については、調査の対象にはなっていません。

この論文は、被引用回数がとても多いです(だから、最初にこの論文を取り上げました)。最近日本語版が発売された『場面緘黙児への支援』でも、この論文が何箇所か引用されています(Black and Uhde, 1995 というのがそれです)。

続きを読む