大人の緘黙症の大規模調査(英)

2015年03月11日(水曜日)

アイキャッチ画像。写真素材サイト PAKUTASO より。

成人期に緘黙を経験した83人を調査


大人の場面緘黙症をテーマとした200ページ超の修士論文が、インターネット上で一般公開されています。実は、この論文を書いた方ご自身が、大人の緘黙を経験された方です(英国の方です)。論文は、昨年話題になった緘黙の本の中でも紹介されています。

論文の題名は、 Selective Mutism in Adults: An exploratory study(成人期の選択性緘黙:予備的研究)です。iSpeak という、主に10代後半の若者や大人の緘黙者を対象とした支援団体のホームページ上に公開されています。

↓ ちゃんとした書き方

iSpeak. (2013, October). Selective Mutism in Adults (MSc Dissertation). Retrieved from iSpeak.org.uk: http://www.ispeak.org.uk/Download.ashx?PDF=/Downloads/PS7112_Dissertation.pdf

論文の内容は、18歳以上で緘黙を経験した83人(うち79人が調査時点でなお緘黙)にオンラインによるアンケート調査を行い、その結果をもとに、予め立てた緘黙に関する様々な仮説を検証したものです。83人が住む国は英国だけでなく11の国におよびますが、英国と米国がそのほとんどを占めています。





大人の緘黙症、国内の研究を見る(6・終)

2014年12月27日(土曜日)

アイキャッチ画像。写真素材サイトPAKUTASOより。
大人の緘黙症、国内の研究を見る(5)」の続きです。前回に引き続き、大人の緘黙症に関する国内研究を、私なりになんとか総括しようとしています。

予後の指標、大井ら(1979)の緘黙分類


大人の緘黙症に関する研究といえば、大井ら(1979)による緘黙の分類が引用されたことがあります(大井ら、1982;丹治、2002)。

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※ 大井らの緘黙分類
Type I:社会化欲求型
家族以外にコミュニケーションを自ら求めるもの。家庭ではおしゃべり。予後は良好。

Type II:社会化意欲薄弱型
家族以外にコミュニケーションを自ら求める意欲に乏しいが、受動的には求めるもの。家庭でも無口。予後はあまりよくない。

Type III:社会化拒否型
家族以外にコミュニケーションを拒絶するかの如く求めないもの。家庭内でも選択的に沈黙。予後は暗い。
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大井らの緘黙分類は予後を測る指標でもあります。 特に、予後が悪い Type III や Type II は、大人の緘黙症を考える上で注目したいです。実際、大井らは青年期の緘黙5症例を取り上げたのですが、これは上記分類の TypeII に該当するものです(大井ら、1982) 。

荒木(1979)の緘黙分類


これと似たものに、荒木冨士夫氏による緘黙の三分類があります(荒木、1979)。大井氏ら自身、後に「われわれのものとほとんど一致しているように思われる」と述べています(大井ら、1982)。

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第I群:積極的依存型
甘えと攻撃性をともに十分に発揮。治療導入は容易。さらに Ia と Ib の細分類がある。

第II群:消極的依存型
甘えや攻撃性はあっても少なく、消極的。さらに IIa と IIb の再分類がある。

第III群:分類気質型
甘えが全くなく、攻撃性は破壊的攻撃というかたちであらわれる。治療導入は困難で、予後はよくない。全緘黙(的)。
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大井らの分類とほぼ同じものであることから、荒木の分類も予後の指標とも考えられます。荒木の研究では、初診年齢24歳男性の事例があるのですが、これは予後の悪い第II群に分類されるものです(荒木、1979)。

ただ、大井ら(1979)の分類も荒木(1979)の分類も、多様な緘黙児の状態像を記述しきれていない可能性が、近年指摘されています(臼井ら、2013)。

自閉症スペクトラムとの鑑別


大井らの分類で言う Type II と、荒木の分類で言う第II群は、自閉症概念が拡大した今日では自閉症スペクトラムを含むのではないかという指摘が出ています(大村、2006;渡部ら、2009)。

青年期以降で話せない場合、米国精神医学会の診断基準でいう選択性緘黙よりも、自閉症圏や統合失調症圏、感情障害圏をまず考えるのが自然だそうです(大村、2006)。緘黙と自閉症スペクトラムの鑑別は重要ですが、大人の緘黙症については特に注意したいです。

今後の展望


何より、大人の緘黙症に関する研究の数が少ないです。今の段階では、大人の緘黙症について分かることは少ないです。なんとかならないものだろうかと思います。

英語圏においても緘黙に関する既存の研究には小学校入学前や小学校の緘黙児に関するものがほとんどなのですが、その不足を補うことを一つの狙いとして発表されたのが、今年出た英国の本 Tackling Selective Mutism: A Guide for Professionals and Parents 収録の研究です(Roe, 2014)。緘黙支援団体 SMIRA の会員と協力して10-18歳の緘黙者の調査を行なっています。

また、83名もの成人が参加し、そのうち79名がいまなお緘黙という大人の緘黙症の研究があるのですが、これは複数の緘黙支援団体のウェブサイトなどを通じて当事者の募集を行なって実現したものです(Sutton, 2014)。

このように、支援団体の協力を得る方法もあります。複数の団体の協力を得てもよいです。

それから、大井ら(1979)、荒木ら(1979)の緘黙分類は予後の指標でもあり、関連する研究で報告されている大人の緘黙症は予後不良なタイプが多いのですが、この分類の妥当性には近年再検討が行なわれており、今後の議論の行方によっては大人の緘黙症の理解に影響が出るかもしれません。

結び


私の力量不足で、「大人の緘黙症に関する研究の数が少ない」ぐらいしか展望を書くことができませんでした。もっとちゃんとした方が、ちゃんとした場で、展望を発表する日が来ることを期待して、結びとします (あなた任せのひどいオチで、すみません……。「ともかくもあなた任せの年の暮れ」小林一茶の句ですが、意味が違います) 。

なにはともあれ、よいお年をお迎えください。

文献






大人の緘黙症、国内の研究を見る(5)

2014年12月24日(水曜日)

アイキャッチ画像。写真素材サイトPAKUTASOより。
れまで4回にわたって、大人の場面緘黙症の国内研究を見てきました(忘れられてるかもしれませんが……)。今年のうちに、そのまとめに入りたいと思います。

過去の記事は、以下の通りです。

○ 大人の緘黙症、国内の研究を見る(1)
○ 大人の緘黙症、国内の研究を見る(2)
○ 大人の緘黙症、国内の研究を見る(3)
○ 大人の緘黙症、国内の研究を見る(4)

過去4回の中で取り上げた、大人の緘黙症に関する内容が含まれる研究等は以下の通りです。

○ 竹山孝二、大原健士郎、野崎次郎、田代宣子 (1976)「姉妹にみられた緘黙症の検討」『心身医学』16(2)、 13。

⇒ 約20年間精神薄弱として育てられ、緘黙症の症状を示した姉妹例。

○ 荒木冨士夫(1979)「小児期に発症する緘黙症の分類」『児童精神医学とその近接領域』20(2)、1-20。

⇒ 初診年齢34歳の女性と、初診年齢24歳の男性の事例あり。ただし、34歳女性の例は統合失調症ではないかという指摘あり(大井ら、1982)。また、24歳男性の事例は、自閉症スペクトラム概念が拡大した今日の目で見ると受動型の高機能広汎性発達障害(大村、2006)や自閉症スペクトラかも(渡部ら、2009)。

○ 大井正己、藤田隆、田中通、小林泉 (1982)「青年期の選択緘黙についての臨床的および精神病理学的研究 -社会化への意欲に乏しい5症例-」『精神神経学雑誌』84(2)、114-138。

⇒ 初診年齢20歳男性の症例あり。その他4症例にしても、2~5年後の追跡調査では(追跡調査時の年齢は18~22歳、うち1件は治療継続中)緘黙状態が持続している者が3例、必要最小限の対話が可能な者が1例。いずれも、受動型の高機能広汎性発達障害(大村、2006)または自閉症スペクトラムかも(渡部ら、2009)。

○ 南陽子、門眞一郎、西尾博、大塚隆治、梁川恵、奥田里美、片岡朗(1987)「選択緘黙の社会適応に関する研究」『安田生命社会事業団研究助成論文集』23 (1)、109-129。

⇒ 現在なお特定場面で話さない19歳男性、24歳女性、23歳女性、21歳男性の症例あり。また、尋ねられれば小声で話す程度の18歳以上の緘黙経験者もさらに6例あり。これらは精神遅滞者も含む。

○ 丹治光浩(2002)「入院治療を行った選択性緘黙児の長期予後について」『花園大学社会福祉学部研究紀要』10、1-9。

⇒ 初診年齢16歳、外来期間18ヶ月、入院期間1ヶ月、追跡期間15ヶ月で、その後も緘黙が継続している事例あり。

○ 大村豊(2006)「選択緘黙-成人期への影響- 」『精神科治療学』21(3)、249-256。

⇒ 初診年齢17歳で1年間治療を行った一卵性双生児の女性の事例と、初診年齢22歳の事例あり。

○ 夏苅郁子、岡田茜、杉浦真澄(2008)「思春期以降まで遷延した、難治性の選択性緘黙8例について」『日本児童青年精神医学会総会抄録集』49、212。

⇒ 初診時平均年齢は14歳(10歳~23歳)ということで、大人の緘黙症を含むが、詳細不明。

○ 冨賀見紀子、金原洋治(2012)「選択性緘黙をもつ大学生事例の検討」『子どもの心とからだ』21(2)、286。

⇒ 大学生の事例が2つあり。発症年齢や受診時の年齢は不明。

○ 伊丹昌一(2012)「場面緘黙のある学生への支援」大阪市立大学『大学教育』10(1)、47-51。

⇒ 19歳の大学1年生の事例。

追加


これにもう2件、最近のものですが、ポスター発表を追加したいと思います。

○ 奥村真衣子、園山繁樹(2014)「選択性緘黙の症状克服に影響を与える要因の検討-経験者への質問紙調査から」日本特殊教育学会第52回大会ポスター発表
http://www.human.tsukuba.ac.jp/~kanmoku/html/okumura2014Poster.pdf


緘黙当事者の任意団体に所属する緘黙経験者48名を対象にした質問紙調査です。22名から回答が得られましたが、回答者の範囲が20~47歳で(つまり全員成人)、そのうち18名が必要な場面である程度話せるようになったそうです。裏を返せば、22名中4名が、成人後も必要な場面である程度話せるようにはなっていないと読み取れます。

ただ、この調査の目的は、当事者の視点に基づく緘黙の克服に影響を与える要因の検討であり、大人の緘黙者そのものには焦点が当たってはいません。この4名についても、詳細は分かりません。

○ 山本敦子、 四本かやの、嶽北佳輝、高野隼、木下利彦(2014)「成人の場面緘黙症状に対する作業療法の有効性」第16回世界作業療法士連盟大会・第48回日本作業療法学会ポスター発表
http://wfot2014.mas-sys.com/pdf/endai100129ja.pdf


場面緘黙症状を有する社交不安障害患者(30代女性)に作業療法を導入して症状の改善が見られたという事例です。作業療法を導入する5年前に緘黙・寡動が著明となったそうです。20~30代に緘黙症状が明らかになったとも解釈できます。それ以前にも緘黙症状があったかどうかは不明です。

緘黙・寡動が著明となった2年後、統合失調症緊張型と診断され、さらにその2年後、社交不安障害に診断が変更されています。統合失調症による緘黙だったのでしょうか。それとも、統合失調症は誤診だったということでしょうか。このあたり、読み取れませんでした。